第五十五章 クリスマスシティー 3.試験航海~一日目、空の旅~
試験航海(?)に乗り出します。
『でだ、今のうちにクリスマスシティーの試験航海をやっておきたいんだが、どの辺りの海域が適当なんだ?』
『試験航海じゃと?』
『あぁ、地球じゃ騒ぎになるのを避けるために、機関砲の試射くらいしかできなかったからな。せめて主砲と両用砲の試射、できれば命中精度の確認くらいはしておきたい』
無事に騒ぎを避けたと思っているクロウであるが、実は某国の某偵察局が謎の幽霊軍艦に振り回されていた事を知ったらどう思うだろうか。
『ふぅむ……人目につかない海がよいのじゃな?』
『あぁ、できれば定期航路から外れた沖合がいい』
『定期航路? 厳密に決まった船の道筋など無い筈じゃぞ? まぁ、それはともかくとして……行き交う船の数が少ないのは北の海じゃろうな。波が荒い上に、凶暴なモンスターが出るそうじゃからな』
『北の海か……爺さま、そこにはどういうルートで行くんだ?』
『そこまでは知らんわい。ただ、王国を出て西に進めば、一月か二月ほどで海に出るとか聞いた事があるのう』
ふむ……距離が今ひとつはっきりしないが、まぁ行ってみれば判る事か。
『よし、他に意見がなければ、爺さまの案を採用して、北の海に向かいたい。それと……申し訳ないが今回海に出るのは洞窟組だけだ。日程がはっきりしない以上、クレヴァスをそう長く空けるわけにはいかんからな。撮影用の魔石は大きめのやつを持って行くから、それで勘弁してくれ』
留守居組の了承を貰った上で、俺たちはクリスマスシティーの試験航海に乗り出した。
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『うわぁ、うわぁ、うわぁ~』
『これは……なかなか……』
『いやはや、何とも絶景でございますな』
『主様、これって、空を飛んでるんですよね!?』
『ますたぁ、凄ぃですぅ』
従魔たちが興奮しているように、現在クリスマスシティーは高度三千メートルほどを航行中である。山脈を越えるためにはそれなりの高度が必要になったからだ。それでも一般の旅客機の飛行高度である一万メートルに較べるとかなり低いが、与圧室も無しにあんな高空を飛べるもんか。燃費がどうのという以前の話だ。
速度は二十ノット、本来のクリーブランド級巡洋艦の巡航速度である十五ノットより若干速い程度だ。かれこれ二時間飛び続けているが、動力源である魔宝玉の魔力消費はごく僅か。思っていたより燃費がいいな。魔力で保護シールドを張っているから、船室はもとより甲板上に風の影響はない。念のために、小柄なうちの子たちが風に飛ばされたり落っこちたりしないように、魔力の命綱でクリスマスシティーと繋いであるけどね。
飛行中の姿勢も安定しており、突風程度では小揺るぎもしない。現在の高度には恒常的な気流は無いようだ。今後、気流の配置が判れば、経済的な飛行ルートも選定できるんだろうか。その辺も考えなきゃならんな。
クリスマスシティーに、飛行に際して何か不都合な状況が発生したら報告するよう指示して、一休みする。まぁそんな事を一々指示しなくても、ダンジョンマスターである俺には、配下のダンジョンに異常があれば判るんだが。
携帯型のダンジョンゲートを通じて、倉庫から適当な食糧を引っ張り出して食事にする。ダンジョンゲートのお蔭で、水や食糧の手配に頭を悩ます必要が無い。面倒事から逃れられて、俺としては大助かりだ。
陽が沈んで有視界航行ができなくなったため、レーダー航行に切り替える。こちらが指示するまでもなく、クリスマスシティーは自身の判断でレーダーを作動させていた。このあたりの優秀さは、アメリカ海軍の巡洋艦だった前世の能力を引き継いでいるんだろうな。まずは安心していられそうだ。
夜も更けたので、クリスマスシティーに当直を頼んでベッドに向かう。ダンジョン転移でマンションに戻ってもいいんだが、折角だから艦長室を使わせてもらう事にする。何十年も海に沈んでいたとは思えないほど居心地のいい部屋だ。ここならゆっくり眠れるだろう。
明日も試験航海の続きです。




