挿 話 枝豆
枝豆は夏の風物詩ですよね。
日本時間で言うと七月の半ば、偶々エッジ村を訪れている時に畑を見ていて気がついた。あれは大豆じゃないのか。近寄って観察し、作業をしている村人――ガズさんという――に訪ねてみたが、名前こそ違うがこの世界で大豆に相当するもののようだ。なら、あの食べ方ができるんじゃないか。丁度旬だしな。少し分けて貰えないか聞いてみよう。
「少しばかり分けて貰えませんかね」
「……そら構わねけんど、穫り入れにゃまんだ早ぇがよ?」
「故郷の食べ方ができるかどうか試してみたいんですよ」
そう言うと、ガズさんは異国の食べ方というのに興味を持ったようで、代金はいいから自分のうちで作って見せろという。さて、どういう風に調理するかね。
俺が食べたいのは枝豆だ。本当は、未熟なまま枝豆として食べるのに向いた品種と、完熟した大豆として収穫するのに向いた品種とがあるらしいが、今回はあくまで試しという事で、その辺は考えずにやってみる。ちなみに、未熟なまま食する食べ方は、こっちでは一般的でないらしい。
枝豆の茹で方だが、茹でた後で塩をかけて食べる方法と、最初から塩揉み・塩茹でにする方法とがある。こっちの世界では塩はそこそこ貴重品らしいので、最初の方法で作ってみよう。ただし、塩茹での方法も一応教えておく。莢のつけ根から――莢の端が少し口を開いた状態になるように――切るようにして枝から切り離し、沸騰したお湯で莢ごと四~五分ほど茹でる。笊があったのでそれを借りて水を切り、塩をかけて食べる。ガズさんは莢ごと食べるのかと疑っていたようだが、莢を少し押して中の豆が飛び出たところを口に放り込んでいくと、目を丸くして見ていた。こっちの世界で食べる枝豆も中々オツなもんだ。冷えたエール――こっちではホップを使用しない上面発酵タイプのものが主流で、これをエールと呼んでいる――と一緒に食べると最高なんだというと、ガズさん鼻息を荒げて頷いていた。
枝付きの大豆を一抱えほど分けて貰ったので、山小屋に持って帰る。俺たちは塩をたっぷりと使って茹でるとしよう。お預け状態のキーンとライは、もう待ちきれない様子、キーンにいたっては涙目だ。
『見せつけるだけだなんて、生殺しじゃないですかぁ~』
『ますたぁ、早くぅ、食べたいですぅ』
解ったから、そう急かすな。
ざっと水洗いした枝豆を、鋏を使って莢のつけ根から切り離す。莢の口が少し開いた状態にしておくと、水回りがよくなるからな。やや多めに見えるくらいの塩を用意し、茹でる前にゴシゴシと強めに塩揉みをしておく。湯が沸騰したら、塩揉みに使ったのと同量くらいの塩――湯量の二パーセントくらいがいいらしいが、俺は結構適当にやってる――を湯に入れて、揉み塩がついたままの枝豆を投入、適度に掻き回しながら四~五分ほど茹でる。笊にあけて水を切り、熱々を戴く事にする。
『熱っ、熱いけどおいひぃれすぅ~』
いや……キーン……お前、よく豆一個丸ごとが口に入ったな……。
『これは中々にオツなもので……』
『主様、美味しいです~』
『こういう……食べ方は……初めて……知りました』
『ますたぁ、おいしぃ♪』
うん、気に入ってもらえたようで何よりだよ。でも、俺の分も残しておいてもらえると、なお嬉しかったんだけどな……。
明日は本編に戻ります。自重しないクロウがやらかした最大の産物が異世界にお目見えします。




