表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/1806

挿  話 ヤルタ教への使い

今回も挿話ですが、今後の展開の上では重要なエピソードになります。

「……では、何卒(なにとぞ)よしなに」

「貴方にヤルタ神のご加護があらん事を」



 ヤルタ教中央教会の一室で、教主ボッカ一世は男との会談を終えた。


 名前も所属も一切不明のその男は、自分の事を隣国の使いだと言った。もしヤルタ教が隣国テオドラムでの布教を望むのであれば、自分たちはそれに協力する用意があると。


 捉えどころのない笑みの奥で、あの男は何を考えていたのか。それをボッカ一世は考えていた。



「教主、あの者の言う事をお聞き入れに?」



 いつのまにか傍に控えていた男――教主の腹心の一人である――がもの言いたげにそう問うた。



「テオドラムに教会を建てる件はな。何も問題あるまい?」

()の国が布教のみを目論んでおるとは思えませんが」

「今になって急に我らに接触してきたのには、(しか)るべき理由がある筈、そう言いたいのであろう?」

(ぎょ)()



 教主はゆっくりとした動きで愛用の杯に酒を注ぐと、もう一つの杯にも酒を満たし、そばにいる男に手渡した。男は頭を下げて感謝の意を表すと、互いに杯を掲げて乾杯する。



「恐らくはバレンやヴァザーリを襲った者ども……仮にバトラの手先と呼んでおる連中の件であろうよ。テオドラムは覇権主義の傾向が強い。隣国に得体の知れぬ戦力が存在するとなれば、作戦遂行上色々と不都合、そう考えておるのじゃろう」

「……作戦とは?」

この国(イラストリア)を征服する事に決まっておろう」



 教主は事も無げにそう言ってのける。



「……教主におかれては如何(いかが)なさるおつもりか?」

「ヤルタの神は、人間が亜人を善導する事は奨励しても、人間同士争うなどという愚行は喜ばれぬ。我らの()すべき事など決まっていよう?」

「では……」

「ヤルタの神の正しき教えを広めるのが我らの務め。幸い、テオドラムの者たちも同意してくれておるようだしな」



 教主は薄く(わら)うと杯を空け、追加の酒を注いだ。



「無駄な争いを避けるべく、また、起こさせぬべく務めよ。場合によっては、この国(イラストリア)に貸しをつくる事もできよう」



 二杯目を口にしながら、教主は矢継(やつ)(ばや)に指示を出す。



「新たな教会の落成を待たずに布教に入れ。ただし、避戦的な言動は、信者の数が充分に増えるまでは慎め。あくまで人間の優位性を説き、優れた者は愚かな行動を取らぬものだと(さと)すにとどめよ。また、それとは別に、現在テオドラムの民衆が抱えておる問題などを仔細(しさい)に調べ上げよ。教団が向き合うべきは常に民じゃ。ふんぞり返った国王などではない」

(ぎょ)()



 腹心の男は最大限の敬意をもって教主の()(めい)に応えた。教義については色々と問題のあるヤルタ教であったが、その教主が一廉(ひとかど)の人物である事は、立場を問わず衆目の一致するところであった。

明日からは新展開になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ