第五十三章 波紋 4.冒険者たち
講演会の影響第四弾は冒険者の反応です。
『クロウ様、このところ私たちの迷宮に挑む冒険者が増えているようなのですが』
シャルドに仕込んだ廃墟――王国では「封印遺跡」と呼んでいるらしい――はきちんと役目を果たしているのかどうか、それを確かめるために、モローのロムルスとレムスに連絡をとったところ、思いがけない返事が返ってきた。
『冒険者が増えただと?』
『はい。迷宮だけでなく、モローのあちこちに出没しているようです』
どういう事だ? シャルドの遺跡が発見されてからこっち、王国の関心はシャルドに移った筈だが……うん?
『ロムルス、レムス、増えているのは冒険者か? 王国軍の兵士はどうだ?』
『冒険者だけです。国軍の兵士は見かけません』
はてね? シャルドの「封印遺跡」は、確かに王国軍を引きつけてくれているようだが……冒険者が増えたというのは想定外だな。
『理由に心当たりはあるか?』
『いえ……』
『ご主人様……その件に……ついて……ご報告が』
ハイファ?
『遺跡に……駐屯する……兵士たちの……話では……ヴァザーリで……シャルドの……遺跡に関する……講演が……あったようです』
『? 金銀財宝がうなってるとでも言ったのか?』
『いえ……何も……無かったと……正しく……報告した……ようですが……』
『それでどうしてこんな事になる?』
『想像に……なりますが……何も無かった……事実に……承伏できない者が……いたのでは……ないかと』
『続けてくれ』
『恐らく……古代都市の……盗掘の話を……連想して……』
『……ってぇと何か? 封印遺跡にも財宝があったのが、盗まれたって思ってるのか?』
『そこに……モローを……根城にしていた……盗賊の……話と……モローで……見つかった……宝玉の……話が……加わって……』
『遺跡から盗まれた財宝もモローに隠されているんじゃないか、どこにある、迷宮に違いない……ってか?』
こいつは妙な事になった。王国の興味をモローから引き離せたのはよしとして、まさか欲の皮の突っ張った冒険者どもがモローに押し寄せるとは……。
『クロウ様、いかがいたしましょう?』
どうするってなぁ……。
『放っておくしかないだろう。同輩が迷宮に喰われるばかりで何も見つからない事に気づけば、大人しく引き上げるだろう。そう期待するしかあるまい』
しかし、それにしても……
『ヴァザーリでの講演とやらは、一体どんな内容だったんだ?』
……爺さまの噂ネットワークに頼るしかないか……。
・・・・・・・・
後日、爺さまが精霊たちの噂を纏めてくれたが、講演を聴いた精霊はいなかった。ただ、講演会場を出た聴衆は、ある者は期待に充ちた、ある者は考え込んだ、ある者は苦虫を噛み潰した、ある者は深刻な、と、見事にばらばらな表情をしていたそうだ。
『……講演の影響が大きかったのは確かなようだが、これじゃ内容を推定するのは無理のようだな……』
『マスター、バンクスにいた貴族のお爺さんは、どうですか?』
パートリッジ卿か……あのご隠居なら聴きに行ってるかもな。しかし……
『キーン、いい考えだが、気になるのは講演を聴いた連中が皆違う表情をしていたという事だ。講演の内容を知る事ができても、そこから各々が受けた影響まで推し測るのは難しいだろう』
とは言うものの……
『だが、当面は他に辿れる伝手が無いのも事実。頃合いを見て、バンクスを訪れる事になるかも知れん……尤もらしい理由が見つかれば、だがな』
あとは……
『封印遺跡での……兵士たちの……噂話に……注意して……おきます』
『私たちも迷宮の外にケイブバットを派遣して、冒険者たちの話を盗聴させます』
『あと、クロウ様、迷宮内で殺した冒険者は、吸収する前に記憶を読み取っておきますか?』
『そうだな……全て頼む。現段階では、情報は多いほどいい』
クロウたちは問題の講演会を聴きに行っていません。なので、講演の何がどのように影響したのかを、未だに把握できないでいます。




