挿 話 夏祭り三題
挿話にしては長めです。
日本時間では奇しくも七月七日、丁度七夕の日がエッジ村の夏祭りであった。クロウは事前に村人に話を通した上で、抜かりなくドロンを決め込んでいた。アクセサリーの件に絡んで丸玉の入手先を聞かれるのが面倒だったためだ。ちなみに木工細工を手がけたホッブだが、偶然にもこの日に王都の方に用事があって、二日前から出かけている。エッジ村住民たちの守りは万全であった。
他村の女性陣の目は、案の定丸玉のアクセサリーに集中した。一人二人ならともかく、村の女性たちのほぼ全員――八ヵ月の赤ん坊と一歳半の幼児を除く――が身に着けているとなると、関心を引かないわけがない。
女たちは自分もアクセサリーを手に入れたいと思い、男たちはアクセサリーを手に入れて目当ての女の気を引こうと目論み、競って丸玉の入手先を聞き出そうとした。
しかし、村人たちの答えは示し合わせたように――実際に示し合わせているのだが――同じであった。昨年この村を訪れた異邦人が、山小屋と畑を借りた礼だと言って置いていった。男は先頃はこの村を発って、今どこにいるのかは判らない。
どこにも嘘はない。ただ、「異邦人は今もこの村に拠点を構えており、夏祭りが終わったら戻ってくる予定」である事を言わなかっただけだ。話の筋は通っているため、他村の者もこの説明で納得するしかなかった。それに、エッジ村の住人には、もう一枚切れる手札があった。
エルフがやはり同じような丸玉を持っていたらしい。今は王都に出かけていていないが、村人の一人がそんなことを話していた。この説明にも嘘はない。ただ、「件の村人はその話を異邦人から聞いただけ」という点が抜けているが。
丸玉の入手先はエルフが知っているらしい――これも嘘ではない。エルフも村人と同様に異邦人から入手しただけだが――という情報はそれなりに説得力があったので、他村の者たちはそれで引き下がった。
しかし一部の者は、何としてもエルフに渡りをつけて丸玉を入手しようと決意していたのである。
思いがけぬ場所から、人間とエルフの繋がりが生まれようとしていた。
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エッジ村の夏祭りを見損ねた代わりというわけじゃないが、マンションからそう遠くない神社で夏祭りが行なわれていて縁日も出ていたので、俺たちは今そちらを見物に来ている。この神社の夏祭りは夏越の祓えの系統で、本来は旧暦の六月三十日にやるのだが、町内会の要望で七夕と一緒に実施することになっている。
今回は人出も多いしキーンも留守番で、懐にいるのはライだけだ。なお、撮影用の魔石は目立たないようにバッジに偽装して襟に止めてある。皆に地球の夏祭りがどういうものか見せる意味もあるので、普段の俺なら辞退するであろう茅の輪くぐりもやっておく。まぁ、異世界でアレコレやってる身だから、厄落としはしておいた方がいいだろうしな。
射的・金魚掬い・風船釣りと一通りトライして見せた後は、焼きそば・林檎飴・綿菓子・焼き玉蜀黍・焼き烏賊・かき氷と一通り買っていく。数を買うとそれなりに嵩張って人目を引くので、適宜――人目につかない場所で――クレヴァスに転移して戦利品を置いていく。ライも解放し、構わずに先に食べておくように言い置いて、次なる獲物を買いに行く。一通り縁日名物を買い終えた時点で、俺もクレヴァスに転移して宴会に加わる。
『マスター、キンギョっていうのは無いんですか?』
『……キーン、金魚は愛玩用であって、食用じゃないからな?』
いや……そんなに驚いた顔をしなくても……。
さて、縁日名物を味わった従魔たちの感想だが、予想通り綿菓子には全員が驚愕していた。
『食べた感じがしないのに、甘い味だけが残ってる……マスター、一体コレ、何ですか!?』
キーンの言葉が全員の感想を要約していた。何度か駄菓子を食べさせているから甘味というのは知っていても、綿菓子の食感は予想外だったらしい。
焼きそばと焼き烏賊あたりはまぁ、珍しくはあるが理解できる範囲だったらしいが、林檎飴にはいささか驚いたらしい。果物を丸まま飴に封じ込めるという豪快な発想に瞠目していた。意外だったのはかき氷で、身体が冷えるといって不評だった。考えてみれば従魔たちの大半が変温動物で、数少ない恒温動物――従魔候補のケイブバットとミラージュマウス――も身体が小さいからな。体温がすぐに下がるだろう。この手の冷菓は向かないか。
そして……焼き玉蜀黍は全員に大好評だった。材料であるスイートコーンはそれ自体がかなり甘いのだが、異世界にはこんな甘い穀物が無いという。考えてみれば、穀物というのは基本的に貯蔵を原則としている。新鮮な状態で食べるのを前提にした「穀物」というのは、異世界では珍しいかもな。それに加えて焼いた醤油が香ばしく、スイートコーンの旨味を引き立てていると大絶賛だった。玉蜀黍は色々な品種が入手可能だし、自分で焼くこともできるしな。機会があれば作ってやろうと言うと、皆が歓声を上げた。
まあ、エッジ村の夏祭りに参加できなかったのは少し残念だが、うちの子たちは縁日の食事にそこそこ満足してくれたようだし、これはこれでいいか。
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その日夏祭りを楽しんでいたのはクロウたちと村人だけではない。シルヴァの森のエルフたちも、他の森からの客を迎えて賑わっていた――特に女性たちが。
「ちょっと、ミナ! その髪飾り、どうしたのよ!」
「え? どうしたって、何が?」
ミナと呼ばれたエルフの娘は、気にも留めていないような振りをしているが、内心では浮かれているのがバレバレである。
「あんた、こないだ持ってたのはブローチだった筈でしょ! ……よく見ると色も大きさも違うじゃない。あたしたちには入手が難しいとか言っておきながら……」
洒落にならない怒気を滲ませる友人に恐れをなしたのか、ミナという若い娘は慌てたように答える。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ、サニア。この間言ったのは嘘じゃないのよ。最近になって追加で入手できただけなの。ほらっ、あんたにも分けてあげようと思ってとってあるんだから」
「まぁっ! ミナ、やっぱりあんたはあたしの一番の親友だわ!」
似たような光景は、この日あちこちで見られた。そして別の一角では……
「ほ、ほんとにこれが金貨五枚半でいいのか?」
「あぁ、俺が手に入れた時に支払ったのは金貨五枚だが……銀貨五十枚分は手数料だと思ってくれ。少し高いと思うかもしれんが……」
「とんでもない! こんな業物が手に入るなら、それくらい惜しくない。しかし……ドラゴンの骨製のナイフとは……」
「今後も入手できるのかどうかが不透明なんだ。次はもっと安く手に入るかもしれんが、一方でもう手に入らない可能性も低くない」
「だろうな……おいそれと手に入るものじゃあるまい。しかし……噂には聞いていたが、異国の精霊術師様というのは大した御方のようだな」
「うむ。俺たちもまだお目通りを果たしてはおらん。精霊術師様と会えるのは、この村ではホルン一人だ。それもあって、追加注文など気軽に出せんのでな……」
また、別の一隅では……
「そう言えば、こないだエルギンの町で人間の行商人に会ったんだけど、このブローチを売ってくれって、そりゃぁしつこかったわよ。駄目だって断ったら、それじゃぁ入手先を教えてくれって、もうしつこいのなんの」
「あら、精霊術師様はあたしたちが手に入れたような振りをするのがお望みなんでしょう? 丁度よかったんじゃない?」
「その話を聞く前だったのよ」
「じゃあ、今度その商人にあったら、条件次第では取り引きできるって言ってやったら?」
「……そうね。でも、人間に回す分が残るかしら?」
「凄い売れ行きだったものねぇ……」
エッジ村とシルヴァの森。それらが属する一帯が、人間と亜人の両方から注目を集めようとしていた。
明日は本編に戻りますが、クロウたちの話ではなく、シャルドの遺跡に関する講演会の余波についての話になります。




