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第五十一章 クレヴァス 5.後日談

昔から、食い物の恨みは恐ろしいと申しまして……

「ほっほ~い、そろそろあの岩場の草も元に戻った頃合いじゃろう。ちょいとばかりゴチになっていこうかのう、ボッツ」



 冒険者たちが去ってから二ヵ月後、そう勝手な台詞(せりふ)を吐きながら岩場へ向かう荷馬車の老人の姿を、ケイブラットが捉えていた。



・・・・・・・・



『マスター、本当にあのバカ驢馬(ろば)がまた来ました!』

『クロウ様、どうしてあの老人がまたやって来ると思われたのですか?』

『何、厚かましそうな(じじい)だったからな、クレヴァス(ここ)驢馬(ろば)の餌場扱いして舞い戻ってくる可能性を考えただけだ。それより、皆、準備はいいか? せいぜい歓迎してやろう』



 クロウの言葉に、なぜか獰猛(どうもう)な笑みを浮かべたクレヴァス組一同が、散って行く。



『クロウ様、そろそろいいですか?』

『あぁ、手頃な距離だ。やってくれ』



・・・・・・・・



 それまで軽快な足取りで走っていた驢馬(ろば)が、突然何かに怯えた様子で立ち止まり、周囲を見回す。



「うん? ボッツ、どうしたんじゃ?」



 老人が声を掛けるが、驢馬(ろば)はますます怯えた様子であちらこちらと首を巡らす。老人も驢馬(ろば)(おび)えが乗り移ったかのように、不安げに周囲を見回す。



・・・・・・・・



『クロウ様、()(しゃく)したドラゴンの尿を霧状にして流すのが、こんなに効果的とは思いませんでした』

『濃度も丁度よかったようだな。濃すぎるといきなりパニックになるんじゃないかと心配していたんだが、いい感じに不安になってくれたようだ。さて、そろそろ俺の出番だな。あの(じじい)には実験動物になってもらおう』



 クロウはそう言い置いて、ダンジョンの奥へと歩いていった。



・・・・・・・・



 不安に身を(すく)ませた老人たちを、突如として影が覆った。思わず上を仰いだ老人の目に映ったのは……



「ドラゴンじゃと!?」



 悲鳴というか怒号というか、獣のような喚き声をあげながら老人は驢馬(ろば)を駆けさせる。古ぼけた荷馬車にしては規格外のスピードで、老人一行は土煙を上げながら遠ざかっていった。追い討ちをかけるように、荷馬車の左右に火球が着弾する。スキンクたちの仕返しだが、動転している身にはブレスを撃たれたように思えるだろう。喚き声が更に大きくなった。



(スキンクたち……わざとギリギリを狙ってるな。……よっぽど茂みの草を食い荒らされたのに腹を立てていたんだろう……)



・・・・・・・・



驢馬(ろば)にしちゃ速いもんだな……』

『もの凄ぃ、勢ぃですぅ』

『それよりもご主人様、見事なお手並みでございましたな』

『骨と皮だけのドラゴンもちゃんと飛ぶんですね~』


 そう、先日レブたちが仕留めたばかりのドラゴンの骨格にその皮を被せたもの、それが老人を脅かした「ドラゴン」の正体だった。俺の死霊術、というかダンジョンマスターのスキルで操って飛ばせたのだ。


『死霊術って、本当に、便利なんですねぇ~』

『いや、死霊術(ネクロマンシー)と言うよりも、人形遣い(パペットマスター)のスキルなんじゃないか、コレ』


 これで、クレヴァスの辺りがドラゴンの通り道になっているという噂が立てば、この辺りに近寄ろうとする者も減るだろう。実際、嘘じゃないしな。


『しかしご主人様、昨年のスケルトンドラゴンとはまた違った意味で、ドラゴンのアンデッドは使い道がありますな』

『自前の皮を被せているから、遠目には普通のドラゴンに見えるしな』


 これはこれで使えるのか。……皮も込みでアンデッド化しておくか。しかし、前回と同じクリスタルスケルトンドラゴンにするのも面白くないな。何かもう一捻り……うん、変身するアンデッドってどうだろうな?



 ドラゴンの骨格にやや大きめの魔石を与えてクリエイト・アンデッドの魔法を使うと、クリスタルスケルトンドラゴンより一回り小さめのスケルトンドラゴンが誕生した。自前の皮を被せてみると、少し離れてみただけでは普通のドラゴンに見える。しかしクロウはそれだけでは満足せず、与えた魔石の傍に中くらいの「理外の魔石」を設置した。両者が魔法回路で繋がるように。



『マスター、何やってるんですか?』

『いやな……これで、よし、変身!』



 クロウの指示とともに、それまでただのスケルトンドラゴンだったものは、一瞬だけ(まばゆ)い光に包まれると、聖気を(まと)ったクリスタルスケルトンドラゴンに変身していた。途端に従魔たちから歓声が上がる。



『ドラゴン、スケルトンドラゴン、クリスタルスケルトンドラゴンの三段階変身だ。意味があるかないかは別にして、面白いだろう』



 大得意になったクロウであったが、この事がばれて精霊樹の爺さまから特大の雷を落とされるのは、このすぐ後の事であった。



・・・・・・・・



「……爺さん、よく生き延びたもんだな」

「ボッツもあれで、いざとなったら速いからのぅ」



 命からがら逃げ帰ったコーツ老人は、エルギンの冒険者ギルドで事の顛末(てんまつ)を報告していた。



「あの辺りははぐれドラゴンの通り道になっているのか……だとすると、こないだの『雷』ってやつも……」

「恐らくドラゴンの仕業じゃろうな」

「だな……。ともあれ、爺さん、貴重な報告には礼を言う。受付に行って報奨金を受け取ってくれ」

「ギルドとしてはどうする気じゃ?」

「あの辺りは極力立ち入りを避けるように言っておく。商業ギルドの方にはうちから伝えておくが、爺さんも他の商人にあったら話しておいてくれ」

もう一話挿話を投稿します。

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