第五章 ダンジョン 2.コアの蘇生
クロウは救出したダンジョンコアの復活を試みます。
持ち帰ったダンジョンコアの破片だが、本当に魔力を流すだけで復活するもんなのか? 精霊樹の爺さまは知らんと言ってたが、何か役に立ちそうな事を知ってないかな?
『そう言ぅてもなぁ、砕けたダンジョンコアを蘇らせようなぞと企てた話は、古今東西聞いた事がないわい。エルフなら何か知っておるかもしれんがな。儂の知り合いのエルフに聞いてみるのはどうじゃ?』
『却下だな。できるできないに拘わらず、ダンジョンコアの復活を企てているなんて知られるのは、やっぱり何か拙いだろう』
『う~む。お主については今更という気もするが、まぁ知られん方がいいじゃろうな』
『で、だ。何か参考になりそうな事の心当たりはないか?』
『そうじゃのぅ。ダンジョンコアではのぅて魔石についてなら、魔力を補充できるという事があるのぅ』
『どうやって補充するんだ?』
『お主がやっていたのと同じじゃよ。手で触れて魔力を流し込むんじゃ』
『それって、場所による違いはないのか? 魔力溜まりでは効果が高いとか』
『うぅ~~む。どうじゃろうかなぁ。ただ、そもそもダンジョンコア自体、ダンジョンシードが魔力を吸って成長したもんじゃからな。周囲に魔力なり魔素なりが充ちておる場所の方が良い、という事はあるかも知れんな』
『そうか……だとすると……』
『お主、まさか……』
『おうよ、そのまさかだ。俺の世界に持ち帰ってみる。俺の世界で魔力を流し込めるかどうか、その検証も兼ねてだな』
・・・・・・・・
というわけで、今、俺のマンションにダンジョンコアの破片があるわけだ。
こっちでも魔力を流し込むのは支障なくやれた。スライムのライのステータスが高めなのはしばらくこっちにいたせいもあるんだろうから、こっちの空気や水に触れれば、少しは効果の割り増しもあるんじゃないか。
とは言うものの、具体的にどうするこうするという腹案があるわけじゃない。再び洞窟に戻って、うちの子たちの意見を聞いてみる。
『でもぉ、どぅやって異世界のものに触れさせるんですかぁ? ますたぁ』
いや、それを相談したいんだが……水浴びさせるだけじゃ足りんかな?
『砕けた分を補うために……魔力だけでなく……魔素を含んだ物質を……与えてみるのは……どうでしょうか……』
ダンジョンコアって、物を食べるのか?
『あっ、マスター、いつか漬物っていうの、教えてくれましたよね? 僕、憶えてます』
いや、待て、キーン。お前、ダンジョンコアを糠漬けにしろと言うつもりか? 糠味噌臭いダンジョンコアって何だよ?
『糠というのが……どういうものかは知りませんが……何かに埋め込むというのは……いいかもしれませんが……毎日魔力を流すなら……邪魔になりませんか?』
そうだな。そもそも糠床がうちには無いし、漬物案はパスだな。
『あっ、僕、また思い出しました。燻製っていうのがあるんですよね?』
キーン……お前はなんでそう、食い物の事ばかり……。でも、気体なら糠味噌に較べて妥協の範囲なのか?
生憎、燻製の道具なんか持っていない。向こうの世界で肉を食べる時の事を考えると、一式持っておくのもありか。でも、毎日毎日燻製していたら、木材チップの代金も馬鹿にならんな。ご近所の眼もうるさいし。何か代用品はないかな、と。
家の中を探して見つけ出したのは蚊取り線香。電子蚊取りにしなかったのは、俺の美意識の問題だ。ミカン袋に入ったダンジョンコアの欠片が、揺れながら蚊取り線香で燻される光景を見ていると、何やってるんだ感が半端じゃない。
他には……そう言えばどこかの伯爵夫人だか誰だかが、若返りのために乙女の生き血を浴びていたとか聞いた事があるな。生き血の入手先なんか知らんし、代わりに酒や紅茶にでも浸けてみるか。
マンションでの酒漬けや線香燻しに頼るのも何だし、数日おきに向こうの洞窟へも持って行って、向こうでも魔力を流してみる。異世界間移動を繰り返すのも、魔力収支ではプラスになるだろうと考えての事だ。
そうこうして日を送っていると、蚊取り線香か酒風呂の効果か、ダンジョンコアが少しずつ大きくなっていった。二つの破片は融合する事なく、それぞれ別個のコアとして成長しているようだ。破片の割れ口が滑らかになり、いびつだった形が次第に球形に戻ってゆく。割れる前のサイズの七割ほどに戻るのに要した時間は約二十日。一応、記録は毎日とっておいたが、何か夏休みの自由研究のような気がする。文部大臣賞は間違いないな、これ。
ダンジョンコアが六割ほどの大きさに戻った頃から、時折ダンジョンコアから途切れ途切れの念話のようなものが届くようになった。やがてコアの成長に伴って念話もはっきりと聞こえるようになり、俺たちはやがてコアが破壊された顛末を聞く事になる。
本日はもう一話投稿します。