表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/1811

第四十九章 エッジ村アクセサリー事情~夏祭りの準備~ 1.ホッブさんの木工職人哀歌

本章は一転してエッジ村での話になります。

 日本の暦では六月に入ったばかりの頃、ここエッジ村でも皆が農作業に(いそ)しんでいる……ただ一軒を除いては。


 一軒の例外というのはホッブさんだ。それと言うのも……


(きた)る七月頭の夏祭りに向けてアクセサリーを仕上げて欲しいと女性陣が?」

「んだで……」

「……この村の女性全員分ですか?」

「んだ……」

「七月初頭までに全員分って……結構きついんじゃ?」

「だで……なぁ」

「あぁ……その間の農作業は皆が肩代わりするから、ひたすら家に籠もってアクセサリーを仕上げて欲しいと……」

「んだよ……」


 事情を説明するホッブさんの口調にも力が無い。こりゃ、薬湯(やくとう)か何か差し入れた方がいいな。いや……それよりも……。


「でもホッブさん、その道具じゃ細かな細工は難しいんじゃ……」


 何しろホッブさんが使っているのは、日本ではボウイ・ナイフと言われそうな大振りのナイフだ。一刀彫には使えても、アクセサリーのような細かな細工は難しいだろう。ホッブさんに断って一っ走り山小屋へ――その実マンションの俺の部屋へ――向かう。確か中学生から高校生の頃に使っていた彫刻刀のセットがあった筈だ。本職が使うような本格的なものじゃないが、それでもボウイ・ナイフよりは使いやすいだろう。あと、疲れをとるための薬湯……というかレモネードのようなものを錬金術スキルで調合して、これも一緒に持って行こう。


 大振りな刃物で細かな細工に四苦八苦していたホッブさんに、彫刻刀のセット(五本組)を渡したら凄く喜ばれた。新品だと気にしたかもしれないが、使い込んで古びていたせいか素直に受け取ってもらえた。いや、凄く感謝はされたんだが。


 彫刻刀の使い方を説明しているうちに、なぜかカメオ細工の話になった。色の違う層が重なった貝の殻に女性の横顔などを彫ったものだと説明したんだが、どうもピンとこないようだった。まぁ、無理もないな。実物はさすがに持ってないが、絵柄は大体こんな感じだと絵に描いて説明したところ、ふんふんと絵を眺めていたが、やおら木片を手にとって、イラストそっくりの婦人像を仕上げたのには度肝を抜かれた。ホッブさん、王都でも充分やっていけるんじゃないか?


 彫刻刀を使ってみるのが楽しくてしょうがないという感じだったので、邪魔をするのも悪いと思って、その日は早々に退散した。


 ……つまり、ホッブさんを野放しにしたわけなんだが……。



・・・・・・・・



 翌朝ホッブさんを(たず)ねた俺が見たのは、多数の木彫りに囲まれてご満悦のホッブさんだったが……あの様子じゃ一睡もしてないな。徹夜でハイになってる感じだ。ホッブさんを捕まえて問い(ただ)すと案の定、思い通りに彫れるのが楽しくて、一晩中作業に没頭していたらしい。身体に悪いし、これじゃあ作業の効率も低下すると言い含めて、朝食とレモネード(もど)きを飲ませて無理矢理休ませる。こっそり睡眠の魔法も使っておいた。今日一日休ませれば大丈夫だろう。


 さて、ホッブさんが休んでいる間、俺にでもできる事はやっておこう。とりあえず簡単な掃除をして、ホッブさんの試作品を見せてもらうか。


 ……細工は御用商人だって舌を巻きそうなくらい見事だが、やはり木彫りの台座に丸玉を埋め込む形式な分だけ、アクセサリー自体も大きめになるな。それでいて大味にも粗雑にもなっていないところが凄いが……。


 うむ。俺にできそうな事は研磨材と塗装の工夫かな。現代日本の紙ヤスリなんか持ち込めんし、漆もこのあたりには無かった筈だ。研磨材代わりには木賊(とくさ)のようなものが生えていればいいんだが……塗装の方は手頃な樹脂のようなものが無いかどうか、少し辺りを探してみるか。


 ホッブさんが起きたら目を通せるように、デザインの参考になりそうなスケッチを幾つか置いておこう。……また無理をしなきゃいいけど。



・・・・・・・・



 精霊樹の爺さまのところへ行って事情を話し、木賊(とくさ)のように研磨に使える草はないかと訊ねたら、エルフたちが細工に使っているという草の事を教えてくれた。実物を見ると……地球の木賊(とくさ)そのものに見えるな。(しゅう)(れん)進化ってやつなのか? 錬金術の素材鑑定で調べてみたが、地球産の木賊(とくさ)と同じように(けい)酸を多く含んでおり、錬金術で乾燥させれば研磨材に使えそうだ。地球の木賊(とくさ)の名は()(くさ)から来ているそうだが、コイツも同じように使えそうだ。乾燥させたものを準備しておこう。


 適当に乾燥させた木賊(とくさ)(もど)きを持ってホッブさんの所へ行くと、ホッブさんに凄く喜ばれた。ホッブさんはこの草の事を知っていたそうだが、在庫が底をつきかけていて、自分で採りに行かなきゃならないかと思っていたそうだ。それはそれで気分転換になったかも……あれ? 俺、余計な事をしたか? 


 ……ともあれホッブさんに木賊(とくさ)(もど)きを渡して塗装の事を聞いてみると、そっちは当てがあるそうだ。ある植物の未熟な果実を潰してから醗酵させて得た液体を塗装用に使うらしい。日本の柿渋みたいなものかな。後で詳しく聞いておこう。その他に食用油――胡麻油みたいなものらしい――も使えると言っていたから、こちらは任せていいだろう。



 あとは……ホッブさんの頑張りに期待だな……。

もう一話投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ