第三百十五章 「クレヴァス」を巡る幾つかの事情 1.クラブとペスコの事情(その1)
目の上のたん瘤と言うか喉に引っ掛かった魚の骨と言うか、とにかくそんな感じの懸案事項だった釣り馬鹿の件が片付いた。
やれ一安心と思って寛いでいた矢先、〝好事魔多し〟という諺の正当性を証明するかのように、クロウの許に新たな注進が届いた。それも、問題など起きそうにない優良株だと思っていたクレヴァスから。
『一体何があった? レブ』
『はぁ……ともかくモニターをご覧下さい』
事情は解らねど、とにかく勧められるままにモニターの画面に目を遣ったクロウたちであったが、
『…………何でこいつらがここにいるんだ?』
『あれって、カタコンベに来た冒険者ですよね? 主様』
『表コースで……お宝を……漁らせて……放流した……筈でしたが……』
『どぉしてぇ、ここにぃ、出て来たのぉ?』
――そう。モニターの画面に映っているのは、「カタコンベ」でお宝をせしめた後、おかしな成り行きでロイル卿から次男坊(フェルナンド)への言伝を頼まれた筈の、クラブとペスコの二人組であった。
しかも二人だけではなく、他の冒険者たちと一緒になって「クレヴァス」の周辺を彷徨いているというのだから、これは面食らわない方がどうかしている。
一体全体、どうしてこんな事になっているのか。
それを明らかにするために、時間軸を一月半ほど遡って、彼ら二人の行動を追ってみる事にしよう。
場面はロイル卿から何の気無しに次男・フェルナンドへの言伝を頼まれた二人が、その二週間後に国境を越えてイラストリアに入国し、更にその六日後にバンクスの町へ辿り着いたところである。
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「な、なぁクラブ……一体これからどうするつもりなんだよ?」
バンクスの町で宿を取るなり、何やらむっつりこんと考え込む事二日、いい加減痺れを切らしたペスコが問いかけたところで、クラブは漸うその重い口を開いた。それ自体は大いに結構な事だったのだが、選りに選ってその口から零れ出た台詞というのが、
「いや……色々考えてみたんだがな。あんまり焦って王都に行くなぁ、拙いんじゃねぇかって気がしてきたのよ」
……なんてものだったから、ペスコが向きになって反論したのも宜なるかな。
貴族家当主からの直々の依頼なんて爆弾案件、さっさと片付けるに如くはないではないか。下手を打って貴族の機嫌を損ねでもしたら、どんな災難が降りかかってきてもおかしくない。
大体マナステラという国は、クリーヴァー公爵家という大貴族ですら粛清したという前科があるのだ。況んや自分たちのようなド平民の命など、鴻毛の一片より軽いのだぞ?
「ま、そりゃそうなんだがな。先だっての事を思い返してみるに、そこまで急ぎって感じはしなかっただろうがよ」
「だ、だからって……」
「ま、聴けや。お貴族様のお言い付けを遵守するなぁ勿論だが、俺たちゃ目立つ訳にもいかねぇってのも事実だ。そこんとこは解ってんな?」
「あ、あぁ……そりゃあ、な」
「よしよし、そこで――だ。もしも俺たちみてぇなド平民が、お貴族様の伝言をお坊ちゃまに伝えるために、王都の王立学園とやらへ出向いたら……どうなると思う?」
「あ……そ、そりゃ……」
「目立ちまくるなぁ避けらんねぇだろうが」




