第三百十四章 湖の秘密~第三幕~ 9.モルファン情報部
ラスコーから腹の立つほど潤沢な情報――註.モルファン情報部視点――を押し付けられてからまだ十日程しか経っていないというのに、そのラスコーが緊急と銘打って追加の報告を送って寄越した事に、モルファン情報部は警戒感――と危機感――を覚えずにはいられなかった。
怖々とその報告書を繙いた彼らは、そこに書かれていた内容を――かなり苦労して――理解した時点で、打ち揃って途方に暮れる羽目と相成った。
何しろ、そこに書かれていた内容というのが――
「『誘いの湖』で大騒動か……」
「ラスコーはいみじくも『怪獣大決戦』と形容していたな……」
「至言だ……」
――「誘いの湖」における一大スペクタクルであったのだ。
当初の目的からは外角高めに大きく外れているような気がするし、それは多分当たっているのだろうが……生憎かつ腹立たしい事に、マーカス国内で発生した大事件には違い無い。しかも、如何なる神の采配か、その現場に当のラスコーが居合わせたというのである。
彼が緊急と銘打って報告してきたのも当然だし、重大事件であるのも間違いではない。ゆえに、ラスコーがこの件を報告した事に対して、モルファン情報部が異論を差し挟む筋合いはどこにも無い。
ただ……
「こんなもん……どこからどう手を着けたらいいんだ……」
……ただ只管に取り扱いが面倒臭いだけである。
「抑現時点では、新顔の魔獣が出現したという報告以上のものではないだろう」
「それはそうだが……場所が問題だろう」
「うむ。仮想敵国同士のマーカスとテオドラムの国境線上。しかも、その片割れのマーカスでは、古代帝国仮説の信奉者が立ち入り検査を要求していたという、色んな意味で曰く付き……いや、札付きの場所だからな」
「そう言えば、その『仮説信奉派』とやらはどうしてるんだ? 依然として立ち入り検査を要求しているのか?」
「いや、さすがにそういう声は出なくなったらしい。彼の『湖』は不可侵の場所という認識を持ったようだが……」
「が――?」
「その一方で、ダンジョンやその跡地に対する傾倒を強めたようだな。探索に熱が入っているらしい」
各方面に様々な影響を及ぼしているのは事実のようだが……
「我が国としては、特に動く理由が無い訳だ。少なくとも現時点においては」
如何に血湧き肉躍る話であろうとも、隣国ですらない他国の内部事情に口を出す理由はモルファンには無い。まぁ、裏ではそれなりに調査員を派遣するなり何なりが必要になるだろうが、表立って首を突っ込む立場にないのが事実である。
だが……
「そんな建前を忖度されると思うか? あの王女殿下が」
「……されないだろうな」
「うむ。この話がお耳に入ったら、何とかして首を突っ込もうと画策されるのは目に見えている」
「また……無駄に才覚がおありだからなぁ」
「うむ……」
しかも――である。
抑今回のマーカス内情調査自体がアナスタシア王女の肝煎りで進められたようなものだから、情報部としてもこの件を黙っておく事は――大いに不本意ながらも――立場上できない。
この先の面倒が約束されたような泥沼状況に、頭の痛い情報部なのであった。




