第三百十四章 湖の秘密~第三幕~ 4.怪獣大決戦~空より来たるものvs水底に棲まうもの~(その1)
「ん? ……ありゃあ何だ?」
「何?」
どこぞの粋人なら〝天高く大魚肥ゆる秋〟とでも茶化しそうな秋晴れの或る日、環視する衆人の目が湖に向いている中、偶々その視線を空に向けた者が漏らした訝しみの呟きが、舞台幕開きの合図となった。
釣られたかのように隣の男がその視線の先に目を遣り、更にその隣が……というように観客の目が順次そちらに向き始める。
「かなり高くを飛んでるな……」
「こっちへ向かって来てるぞ?」
幾許かの不安は募ったものの、そこは物見高さを以てここに集まった野次馬連である。不安と好奇心を天秤にかければ、好奇心の方に秤が傾くのも当然というもの。
だが、彼らはこの時、〝好奇心が猫を殺す〟という能く知られた諺を思い出すべきであった。
「お、おぃ……アレ……」
「ま、まさか……?」
「ワ、ワイバーン?」
「ワイバーンだぁっ!!」
――グレータースケルトンワイバーン。
嘗てシュレクのダンジョン村で悪徳商人を公開処刑した……そして何より、マーカスの王都マイカールの上空を編隊飛行して、マーカス国軍を「誘いの湖」に――正確にはその近傍の「災厄の岩窟」に――招き寄せた謎のモンスターが一頭、悠然とこの地に飛来したのである。
湖の大魚を釣り上げるどころか、立場一転して自分たちが餌になりそうな気配に観客たちは動揺し、あわやパニックになりかけたのだが、
「落ち着けっ! 下手に騒ぐとワイバーンの目がこっちへ向くぞっ!!」
――という叱咤の声に落ち着きを取り戻し……はしなかったが、少なくとも無秩序な騒ぎになる事だけは避けられた。誰だって命は惜しいものだ。
ちなみに、この時叱正の声を上げたのが誰なのかは、後々になっても判明しなかった。ただこの時、この辺りには珍しく色白で金髪の見知らぬ男たちが数名いたという証言もあったが……それすらもはっきりと確言できる者はほぼいなかった。
余談はさて措き、凍り付いたように身動ぎ一つせず、ただ息を潜めて事態の推移を見守っていた一同の眼前で、グレータースケルトンワイバーンは緩やかに上空を旋回していたが……やがて何かに狙いを定めたかのように緩降下を開始した。
……一体何をしようというのか。
さっきまでの危機感・恐怖感・緊迫感はどこかへ置き忘れてきたのかと言いたくなるほどに、視界を遮る岩海に歯軋りしていた観客一同であったが、窮すれば小知恵の回る者はどこにでもいるらしい。
一人の男が何かに気づいたように駆け出すと、制止の声もものかは、岩の隙間に体をこじ入れ……たりはせず、身軽に岩の上に攀じ登った。それを見て、あっという声を上げたかとみるや、直ぐにそれに追随する野次馬たち。
――そう。岩海の中に侵入するのは無理だとしても、巨岩の上に攀じ登って、内部を窺う事はできるのである。
瞬く間に岩の上に鈴生り……ではなくて、目白押しになった野次馬――警備のために派遣されていた国軍の兵士含む――が固唾を呑んで見守る中、次第に高度を下げつつ旋回して湖面を窺うグレータースケルトンワイバーン。
そして――そのワイバーンを迎え撃つかのように湖面に姿を現しているのは……




