第三百十二章 特命調査員ラスコー、マーカスへ 5.迷走!ヤルタ教(その2)【地図あり】
訊き込み開始早々にルイジが思い知ったのは、〝当初の考えが甘かった〟というその一事であった。
抑の話として、場末の町で掘り出し物を買い漁ろうという奇特な客――例えばイラストリアのハーコート卿のような――がそれほど多い訳が無く、ならば売れる当ての無い不良在庫を抱えていられるほど〝場末の店〟に余裕は無い。客だってそれは解っているから、端からそんな店に持ち込む訳が無い。伝手を頼るなり行商人に押し付けるなりするのが普通である。
せめてお目当ての貴族たちがどういったものを欲しがっているのか、その一端でも判らないものかと訊ねてみたのだが、結果は捗々しいものではなかった。
「信奉派が探しに来てない店では、彼らが何を探しているのか解らない。逆に信奉派が既に来た店では、当然めぼしいものは買われている。売れ残っているのはつまり、彼らが食指を動かさなかったもの、か。……考えてみれば当たり前の話だな」
その〝当たり前〟に、現場の土を踏むまで気付けなかったというのは残念の極み、慚愧の至りだが、得てして世の中はそんなもの。予想と現実が食い違っているなら、粛々と方針を変更するだけだ。
――場末の町が外れなら、今度は主立った町に狙いを変えれば良い。
そう考えたルイジは、当然の如く上司にお伺いを立てて了承を得ると改めて、この辺りで一番大きなニーダムの町へと足を向けた。
[テオドラム~マーカス周辺地図]
今度は前回の轍は踏まないと、最初からそこそこ大きな骨董屋に目星を付けて当たってみたのだが……案と意気込みに相違して、こちらでも思わしい結果を得る事ができなかった。
「いや……〝お貴族サマ方が探してるもん〟つってもなぁ……」
乱暴な口調とは裏腹に親切な店員が、首を捻りつつも教えてくれたところに拠ると、抑貴族たちが買っているもの自体が混沌としているらしい。
「つぅかな、お貴族サマ方も何を探したら良いのか、自分でも解ってねぇんじゃねぇか?」
――というのが店員の見立てであったが……実際には、少し違う。
仮説信奉派の貴族たちとしては、飽くまで古代の大帝国の栄華――幻想とも言う――を示すものが欲しいのだから、ショボいものや貧乏臭いものに用は無い。
その一方で、彼らが欲しているのは名品珍品ではなく、古代マーカス帝国仮説を支持する上での物証たり得るものである。故に来歴のはっきりしていないものは、幾ら名品であろうと――少なくとも信奉派としては――欲しくない。
更に付け加えるならば、マーカス国内で出土したものの方が望ましい。古代帝国の中心地という栄光を、他の国に分け与えてやる必要が何処にある?
ただ……遺憾な事に、そこを履き違えた者たちがあまりにも多かった。
言うまでも無いが、ヤルタ教と同じような事、つまりそれっぽい者を手土産にして、貴族の歓心を買おうと考えた者は他にもいた。ただし、そんな彼らの多くが問題の表面だけを眺めて、素性の怪しい如何物・紛い物を買い漁ったせいで、徒に珍品特需を煽る結果になっていた。
のみならず、そんな代物を持ち込まされた信奉派貴族がすっかり気分を害してしまい、ハードルが上がって逆効果を招く……などというオチまで付いた。
「……『レムダック遺物』云々はこの際忘れて、単純に貴族に取り入るというなら、どんなものを手土産にすればいい?」
「個人差があるから一概には言えねぇな。共通点が遺物って事だ」
「そうか……」




