第三百十二章 特命調査員ラスコー、マーカスへ 4.迷走!ヤルタ教(その1)【地図あり】
ラスコーを困惑せしめたヤルタ教の動きであるが……タネを明かせば何の事は無い。単に思惑が悉く外れ、打つ手打つ手が裏目に出ていたというだけである。多少の寄り道にはなるがここでは少し時間を遡って、その経緯を見ていく事にしよう。
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ヤルタ教教主ボッカ一世から直々に下されたというこの任務――レムダック一派への手土産探索――を引き受けたのは、ルイジという名の冒険者であった。命ぜられた仕事だけを淡々と熟すタイプであり、〝意欲や熱意には欠けるが、独断に走る事は無い〟という点では使い易いとして、教団からは便利屋のように扱われている男である。
まぁ、何かあればその都度本部に連絡して指示を仰ぐタイプなので、直接の上役となった者――今回は渉外担当の司祭――が胃痛を抱える事も多いのだが。
そのルイジが今回受けた指示は、〝マーカスに赴いて、古代帝国仮説信奉派の歓心を買うような手土産を入手せよ〟という、些かならずフワッとしたものであった。
普通の冒険者なら困惑、或いは立腹したであろうが、このくらいでルイジが動じる事は無い。曖昧な説明しか受けなかったのは、不確定要素が多いためだろうと理解。とにかく現地へ赴いて、現場の状況を確かめなければ始まらないだろうとの結論に至る。
無論、事前に「古代マーカス帝国仮説」なるものについては簡単なレクチャーを受け、仮説信奉派の興味を引くにはその「仮説」に沿った、或いは沿っているように見える何かを提示するのが早道だ――という見解も伝えられていた。そこまではいい。
問題なのは、その〝仮説に沿ったもの〟というのが、具体的に何を指すのか解らない事である。既に仮説信奉派は、その「仮説」を支持する物証――通称「レムダック遺物」――を得ているというのだから、あまりそれと懸け離れたものでは拙いのではないか。
――では、件の「レムダック遺物」というのは如何なるものか。
当然のように出て来る質問であるが……当のレムダック一派がその物証を、後生大事に抱え込んで開示しないというのだから、拠るべき情報が得られない。
唯一の手懸かりと言えそうなものは、件の遺物について漏らされたという〝これまでに類を見ない黄金造りの酒盃〟という一言のみ。
……成る程、これでは曖昧な指示しか貰えない訳だ――と、ルイジも呆れつつ納得する事になった。
ここで問題は、〝他に類を見ない〟という一語をどう解釈するかという一点に絞られる。まぁ解釈も何も、〝珍奇な〟ものを探せと言い換えるしか無さそうだが。
となると、その〝掘り出し物〟――段々単語が変質しているようだが、そんな事を気にしてはいけない――を何処で探すかという事になるが、
〝この報告が寄せられた時点で、仮説信奉派はかなり熱狂していたようだからな。めぼしいものは粗方買い尽くされている筈だ〟
〝となると、大きな町より寧ろ小さな町で、場末の雑貨屋辺りを狙う方が良いかもしれん〟
――というアドバイス(?)を、出発に当たって頂戴していた。
成る程、小さな町なら専門の骨董屋は無いだろうが、中古品を扱う店は多いだろう。そしてそういう雑貨屋なら、古物や装飾品として置いてあっても不思議は無い。穴場狙いというのは案外悪くない方針に思える。
そう納得したルイジは、サウランドを経てマーカスに入った辺りから、小さな町で場末の店を訪ね歩いてみたのだが……
[テオドラム~マーカス周辺地図]




