第三百十一章 変転「カタコンベ」 10.カタコンベ裏コース(その6)
今度こそ納得できたようなデックを引き連れて、ボックは意気揚々と奥へと進んで行った。それを――モニターの画面で――見送るクロウたちの心中は、
『……これ、モンスターたちの挙動を変えさせた方が良いと思うか?』
『爆散だと「百魔の洞窟」とも被りますからねぇ……』
『折角、〝ここはダンジョンでない〟と誤解してくれてるんだし……』
『情報の攪乱は戦術の基本ですから』
『〝砂に埋まってるのを掘り出す〟――っていう方が、元々のコンセプトに近いですよね?』
『お宝と魔石っていう違いはあるけどね』
『大きな変更をする必要も無さそうだし、誤解をそのまま利用させてもらったら?』
――という衆議一決の下、「カタコンベ裏コース」の新たな方針が策定されたのであった。
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「ふぅ……何とか追っ払ったか」
「ボ、ボックよぉ……何だか襲撃の間隔が狭くなってねぇか……?」
「あぁ。こうも引っ切り無しに襲って来るようじゃ、腰を据えて砂篩いなんざやってられなかったろうが」
「そ、そうだよな……これで正解だったんだよな」
「当ったり前よ」
鼻高々のボックを賛嘆の目で見つめるデックであったが……
『いや……そりゃお前らがずんずん奥へ進んでるからだろうが』
『奥へ行くほど攻略難度が上がるというのは、ダンジョンもののお約束ですよね、マスター』
『あぁ。俺もそう思ったからモンスターの攻撃頻度を高めて、見返りにドロップの数も増やしてるんだが……』
『数だけじゃないでしょ、クロウ』
『そりゃまぁ、数だけ増やしてもつまらんからな』
「数が増えてるのも確かだけどよぉ、魔石自体も大きくなってねぇか? 気のせいか、品質も高くなってるみてぇな気がするし」
「あぁ、それは俺も気が付いた。多分だが奥へ行くに連れて、魔素の濃度も上がってるんだろうよ。サンドシンカー以外のモンスターも出て来やがったしな。砂蛇とか」
「ありゃあ……肝が冷えたぜ」
「まぁ、砂の中からいきなり飛び出しやがったからな。……その後で、クモの巣に引っ掛かったなぁちと笑ったが」
「こきゃあがれ。こっちゃそれどこじゃなかったんだからな」
『あのサンドボア、迫力ある登場シーンでしたよね~』
『砂の中からぁ、一気に飛び出てぇ、直立して見せたしぃ』
『本当に一本棒になってましたよね、主様』
『目の前に……いきなり飛び出て……威嚇……しました……から……』
『あわや腰が抜けそうでございましたな、あの二人』
『捕食行動という意味では、盛大な空振りなんだがな……』
『でもクロウ、弟分の方は、バランス崩して引っ繰り返ってたじゃない』
『そうそう! それで手を突いた先が』
『あー……選りにも選ってスティッキーシーターの巣だったっけ』
『マスターの部屋のゴキブリトラップ、あれに引っ掛かったみたいでしたよね』
『まぁ、トラップじゃなくてクモの巣なんだが』
『弟分を引き剥がそうと、必死に奮闘してる兄貴分の前で』
『あー……巣の主のスティッキーシーターが、冷ややか~な目で見つめてた』
『あれは確かに笑えたわね……』
『例によって当人どもは、気付いてもおらなんだようじゃがの』
――などとクロウたちが軽口を叩いている間にも、ボックとデックの方は今後の方針を纏めつつあった。
「まぁ確かに、そろそろ俺たちの手にゃ負えなくなってきたようだな」
「そ、それじゃぁ……」
「あぁ。欲を掻かずにここらで引き上げんのが無難だろうよ」
自分たちの力量と攻略難度を正確に把握し、欲を掻かずに撤退の決断を下す辺り、それなりに優秀な冒険者であったらしい。人は見かけによらないものである。
『あ、あいつら引き上げるみたいですよ、マスター』
『ふむ……上手い具合に広告塔になってくれればいいんだが』
『どうかしら。自分たちだけで独り占めを決め込むんじゃない?』
『力量不足を……自覚しているようですから……それは無いかと……』
『寧ろぉ、このネタを売ってぇ、お金に換えよぅとぉ、するんじゃなぃ?』
『あー……そっちの可能性も高そうね』
『ま、暫くは様子見に徹するか』
これにて本章終幕。そして年内の更新も最後となります。新年の更新は六日からとさせて戴きます。
それでは、良いお年を。




