第三百十一章 変転「カタコンベ」 9.カタコンベ裏コース(その5)
「いいか? サンドシンカーが……いや、あいつらだけじゃなく他のモンスターどももだが……長ぇ事ここに居着いてやがんだとしたら、その間にゃ死んだもんもいる筈だ。生老病死は何者たりとも逃れる事のできねぇ業ってやつだからな」
「お、おぉ……」
『……いきなり哲学的な事を言い出したな』
『じゃが、話の筋は通っていそうじゃぞ?』
『今暫く耳を傾けるといたしましょう』
「で――だ。ここで死んだモンスターがいるんなら、そいつの魔石もここに残ってるってのが筋だろうが。これが地表に剥き出しになってんなら、他のモンスターに食われちまってもおかしかぁねぇが、砂ん中に埋まってりゃあ話は別だ。現にこの魔石が埋まってた訳だからな」
「お、おぉ……」
「ここがダンジョンなら魔石はさっさと吸収されちまうだろうが、ダンジョンじゃねぇのは明白だ。来る途中で何度も、剣で壁を叩いて確かめた。ダンジョンの壁なら傷付く事ぁ無ぇ筈だからな」
「な、成る程……」
成る程、ボックはボックなりに、〝ここはダンジョンではない〟という前提から論を進めて、斯くいった結論に至ったようだ。
コアルームで視聴しているクロウたちも、そこだけは理解できたものの、
『「カタコンベ」は崩壊崩落を前提にしているから、壁の耐久値も低めに設定してあるだけなんだがなぁ……』
『それもですけど……ダンジョンドロップっていう発想は、無かったんでしょうか?』
『ダンジョンのモンスターが素材やアイテムをドロップするっているのは、お約束ですよねぇ』
『キーン……それは飽くまで……ご主人様の世界の……ゲームやラノベの……お約束です……こちらの……現実とは……少し違います……』
『でもぉ、魔石とかはぁ、ちゃんとドロップしますよねぇ?』
ダンジョンは共生獣の食べ残しや屍体なども吸収するが、モンスターが体内に生成する魔石や金属製の武器、或いは一部の共生獣が胃石代わりに呑み込んだ不消化物――例えば宝石や装身具――などは、材質によっては吸収するのに少し時間がかかる(コアを持つダンジョンの場合、通常は十秒以内)。その結果、ダンジョン内で魔物を殺した場合、屍体が消えて後に魔石や武器を残したように見える。これが俗に「ドロップ」と言われる現象である。
ダンジョンアタックを生業とする冒険者には常識と言っていいものであるが、長らく国内にダンジョンを持たなかった――活用できていないという意味では今も大差無い――テオドラムでは、そういった知識は周知されていなかった。
一部の冒険者がイラストリアにある「ピット」で狩りをしていたのは事実であるが、「ピット」のモンスターはダンジョン外で活動する事が多く、テオドラムの冒険者はそれらの外出モンスターをダンジョン外で狩っていたため、「ドロップ」という現象を目にする事は無かった……というのが真相のようであった。
『この者たちがダンジョンドロップの現象を知っておれば、また違った結論になったかもしれませんな』
『知らなかったから……唯一確かな事実として……〝ここはダンジョンでない〟という……前提から……推論を進めた……訳ですか……』
ボックとデックの二人にとって、魔石は〝モンスターの体を切り開いて取り出すもの〟であり、〝ダンジョン内で斃したモンスターの屍体からドロップするもの〟ではなかったのである。
「だからよ、ここでちょっくらサンドシンカーどもの相手をしてやって、やつらを適当に暴れさせりゃ、埋まってる魔石を穿り返してくれるかもだろうが」
「な、成る程……」
「それを実地に確かめるためにも、もう少し奥へ進まなきゃ始まらねぇだろうが」
「お、おぉ……そういう訳か……け、けどよボック」
「あぁ? まだ納得できねぇってのか?」
「い、いやな、魔石が砂ん中に埋まってんなら、俺たちがそれを穿るってのは無しなのかよ?」
当然のように出て来る疑問であったが、ボックは大きく態とらしい溜息を吐くと、
「おぃおぃデック、お前、しゃがみ込んで砂を篩ってるところを、サンドシンカーに襲われてぇのか? それくらいなら襲って来たモンスターを振り払って、その衝撃で魔石が吹き飛ばされてくるのを狙った方が早ぇだろうが」
「な、成る程……」
「納得できたんならさっさと行くぞ……用心してな」




