第三百十一章 変転「カタコンベ」 7.カタコンベ裏コース(その3)
幸いに少し行った先で、モルケットを見失ってマゴマゴしているデックを回収できたので、ボックは些か中っ腹になって弟分を難詰する。
しどろもどろのデックの弁解によって事情は理解したものの、無闇に奥へと駆け込んだせいで、ここまでの道順が些か怪しくなっている。ここは大事をとって一旦退くべきか、それとも好い切っ掛けとして先に進むべきか。
どうしたものかと思案に暮れていたボックであったが、そうこうしているうちに事態の方が先に動いた。
「ひゃっ!? な、何だ!?」
魂消たような悲鳴に振り返ってみると、そこには足首に噛み付いた何かを振り払おうとするように、頻りと宙を蹴っているデックの姿。その足首に噛み付いている中型犬ほどの影は……
「サンドシンカーかっ!」
サンドシンカー。砂の中に潜んで獲物を待ち受け、集団で襲いかかるトカゲ型のモンスターである。大きさは中型犬ほどだが、集団で狩りをする上に、牙から出血毒を分泌する。獲物が反撃してくると瞬時に離脱して砂中に潜り、隙を見て襲いかかる。獲物がその場を逃げ出しても、砂中を泳ぐように移動して追跡を続け、気が緩んだところで襲撃を再開する、獰猛かつ執拗な捕食者である。
サンドシンカーに襲われた時、何よりも気を付けるべきは出血毒であるが、この時は厚手の革靴が毒牙を防いでくれたようだ……と、二人は思っていた。
『よ~し、上手い具合に手加減……いや、牙加減したな』
『加減しないと通っちゃうんですよね? 主様』
『あぁ。あいつら魔石をやったらパワーアップしてな。放って置いたら貫くどころか、革靴もろとも足の骨を噛み砕きかねん』
『うわぁ……』
『普通のサンドシンカーの振りをするのも、大変でございますな……』
『あ、どうにかこうにか振り払ったみたいよ』
『実際は、そういう振りで離脱しただけなんだがな』
『演技派ですぅ』
一旦は離れたサンドシンカーであるが、あっというまに砂中に潜って姿を消した。だが、それで諦めた訳でないのは、ボックとデックの二人にも解っている。
ダンジョンアタックの経験は無きに等しい二人であるが、冒険者として無能な訳ではない。サンドシンカーはダンジョン外にも棲息するモンスターなので、その生態や習性についても基本知識として知っていたようだ。
互いに背中合わせとなって警戒していた二人であったが、両者それぞれが視界の隅で、僅かに砂の動くのを認める。
「来るぞっ!」
「来やがれっ!」
その叫びが合図となったかのように、砂中から躍り出た一頭を、ボックが剣で打ち払う。僅かな時間差を置いて、別の個体が異なる角度からデックを襲うが、これも身を捻ったデックに躱される。四方八方から襲いかかるサンドシンカーの群れを、二人の冒険者が剣を振るって懸命に退けている……ように見えるであろうが、
『おー、今の個体って、剣の腹に手を突いて身体を捻ってましたよね。器械体操の跳び箱みたいに』
『剣の腹を蹴って宙返りしてたのもいたよね?』
『パルクールですぅ』
『時折……「谺の迷宮」の……訓練施設に出向いて……パルクールの……訓練を……していたようですから……』
『あいつら……そんな事してたのか……』
そうこうしているうちに、ボックの会心の一振り(笑)が見事サンドシンカーの一匹を捕らえた。悲鳴とも唸りともつかぬ叫び(笑々)を上げたサンドシンカーが砂上に落ちると、爆煙ならぬ砂塵を上げて姿を消す。それが合図となったように、サンドシンカーの群れは潮が引くように退いて行った。
「た……助かったのか……?」
「あぁ……確りと手応えがあったからな。仕留めたなぁ間違い無ぇ」
『マスター、あの個体、もろに頭で受けてましたけど……大丈夫なんですか?』
『問題無い。たかが冒険者の片手剣で、今のあいつらをどうこうできるものか。痣でも作れたら報償ものだ』
『こやつが魔石で散々に強化しおったからのぉ……』
それでも用心のつもりなのか、サンドシンカーが落ちた辺りの砂を剣先で探っていたボックが、砂の中から何かを拾い上げた。




