第三百十一章 変転「カタコンベ」 6.カタコンベ裏コース(その2)
得体の知れない窖に入り込むのは気が進まないが、然りとて置いてけぼりも願い下げだわで、おっかなびっくり渋々と、ボックの後を蹤いて行っていたデックであったが……
(ん……? ありゃあ……ちょっと待てよ……?)
岩の割れ目から身体を覗かせ……いや、正にそこから出て来ようとしている巨大な昆虫の姿を目にした途端、デックの弱腰は吹き飛んだ。
(モルケットだと!?)
モルケット。体長二メートル弱の昆虫型モンスター。捕食性ではなく攻撃性も低いため、積極的に人を襲うような事はまず無い。
素材を求めて討伐しようとする者はいるが、通常は穴や隙間に潜んで頭胸部のみを表に出しており、しかもその頭胸部が滅法頑丈にできているため、討伐するのは難しい。どうにかして巣穴から引き摺り出すしか無いのであるが、そうすると発達した後ろ足で飛び跳ねるか、或いは翅を拡げて飛び去ってしまうため、滅多に狩られる事の無いモンスターである。
――言い換えると、モルケットの素材は稀少性が高く、良い金になる……首尾好く狩る事さえできれば。
欲に眼の眩んだデックが、ものも言わずに片手剣を叩き付けるが……モルケットは宛ら剣士の如き体捌きでヒラリと身を躱すと、軽く跳躍してから翅を拡げ、洞窟の奥へと飛び去った。
「あっ! 待ちやがれ!」
……すっかり逆上した体のデックを引き連れて。
「お、おぃデック! どうしたってんだ!?」
――これに驚いたのがボックであった。
温和しくあとを蹤いて来ている筈の弟分が、なぜか突然暴走して奥へと駆け去って行ったのだ。
寸刻呆然として見送ったものの、兄貴分として放って置く……いや、放って置かれる訳にもいかない。事情が解らないなりに、それでも肚だけは確りと括り、急ぎ足にデックの跡を追う……つまり、洞窟の奥へと進んで行った。
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『思ったより簡単に引っ掛かったな』
『……また何かやったの? クロウ』
コアルームのモニターで事態の推移を確認していたクロウがそう呟いたのに、呆れ半分・咎め半分という声を上げたのはシャノアであり、そして
『訊くまでも無いわぃ。こやつ十八番の手を使ったに決まっておる』
『モルケットに……【魅了】の……スキルを……付与したのですか……?』
クロウの仕込みを正確に看破してのけていたのが精霊樹の爺さまとハイファであった。いや、他の眷属たちも、薄々真相に気付いてはいたようだが。
『いや……記憶容量の少なそうなやつだし、いけるかとは思っていたんだが……予想以上に効果抜群だったな』
どうやらモルケットが姿を見せたのも、最初から【魅了】を狙っての事だったらしい。
これはこのモルケットに限った事ではなく、クロウ配下のモンスターには妙に芸達者な者たちが揃っているようだ。
『ま、これで役者も舞台に上がってくれた。精々楽しませてもらうとしよう』




