第三百十一章 変転「カタコンベ」 5.カタコンベ裏コース(その1)
さて――〝モンスターは様子を見ながら小出しに〟という基本方針こそ固まったものの、具体案については何一つ決まっていない。トラップによって四階層に転移させられた二人は、そろりそろりと奥へ向かっている。
『さっさと決めないと手遅れになるんじゃないの? クロウ』
『うぬぅ……しかし、いきなり実力者を当てるのもな……』
初手は軽い相手から始めないと、二人が逃げ帰るか、或いは進入に及び腰となる可能性がある。強者に手加減をさせたところでそれは同じ。危険と判断した時点で逃げ戻り、悪い評価をテオドラムに持ち帰る可能性だって考えられる。
……どちらにしてもクロウの望むところではない。
『最初は軽めのモンスターを出してやればいいんじゃないですか? 主様』
『奥へ進むほど敵が強くなる……ゲームのお約束ですよね、マスター』
眷属たちは「定番の展開」を勧めてくるが、
『だがそれだと、入口付近にいるモンスターほど外から入ってきた獲物にありつき易くなる。つまり、入口付近が最も条件の好い場所という事になるぞ?』
――強者が最も良い位置を占めるという、自然界の大原則に背くのではないか?
……などとクロウが余計なところに気を回しているうちにも、二人の方はどんどん奥へと進んで行く。
『ほらほらクロウ、早くしないとモンスターたちが待ち焦がれてるわよ? 偶然出会したりしちゃうかもよ?』
『奥の方が住み心地が好いとか、そんな理由をでっち上げればすむじゃろうが』
『えっとぉ、奥の方がぁ、魔力が濃ぃとかぁ』
『それでしたら……強い個体ほど……深部を目指す……事になりますから……』
『奥に陣取るものほど、食いでのある餌にありつけるという訳でございますな』
『よしっ! その設定でいこう!』
……と、泥縄で裏コースの設定が決まる。
後はこの設定に従って、手頃なモンスターを配置するだけだ。
『前回は出番が無かったやつから登用していくとして……こいつらにするか』
・・・・・・・・
「……妙な場所だな。広さはそこそこあるみてぇだが枝分かれしてて……まるで何かが掘った巣穴みてぇだ」
「ボ、ボックよぉ……」
これほどの広さを持つ巣穴を必要とする〝何か〟とは、一体どんな〝何か〟なのか。もしも非好意的なモンスターだとしたら……既に泣きそうな顔になっているデックであったが、
「落ち着けって。入口の大きさからして、そこまでデカいモンスターの筈が無ぇし、第一入口からこっち、足跡も糞も無かっただろうが」
「そ、そりゃそうだけどよぉ……」
「入口」があの一ヵ所とは限らないし、大勢のモンスターが協力して巣穴を拡張したかもしれないではないか。どっちにしても願い下げの展開だ。
そんなデックの心底を慮ったのか、ボックが新たな可能性を指摘する。
「……それにな、この構造がモンスターとは無関係だって可能性だって無い訳じゃねぇ」
「む、無関係……?」
「あぁ。聞いた話だが、世界樹みてぇなデカい木が埋もれて土が固まった後、埋もれ木が朽ちて無くなると、枝を広げた木の形がそのまま空洞になって残るんだとよ。もしもここがそうだとすると、モンスターの出る幕は無ぇ訳だ」
「な、成る程……」
……どこかで溶岩樹型の話でも聞き囓ったのだろうが、この辺りの地質は火成層でない上に、抑分岐の形が樹枝状ではない。明らかな見当違いである。
『……ツチグモでも出してやるべきかな』
『あっ、すると、奥にあるのは非時香菓ですね!?』
『何なのそれ?』
『何でもない……そろそろ第一モンスターが接敵するぞ』




