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第三百十一章 変転「カタコンベ」 4.黒幕談合

 さて――通路に仕込んだ転移トラップによって、首尾好くデックとボックを裏コースに引き入れたクロウたちであったが、ここで思わぬ難題に直面する事となっていた。


 テオドラムの冒険者(ロクデナシ)どもを誘殺する、もしくはテオドラム本国に混乱をもたらすというクロウの狙いに(かんが)みれば、少なくともこの二人には生還してもらって、テオドラム本国へ〝魅力的な〟報せを持ち帰ってもらわねばならない。その点はクロウたちも重々(じゅうじゅう)理解しているのだが……



『……あいつらに合わせた適正レベルって……どのくらいなんだ?』

『何しろ、あの(・・)テオドラムの冒険者ですからねぇ……』



 思い返せば、クロウたちの知っている〝テオドラムの冒険者〟というのは、どいつもこいつも力量に不安のある者ばかりであった。

 (さかのぼ)れば、ウーチャと呼ばれるネズミを狙って「ピット」の近くへやって来た冒険者たちを皮切りに、「災厄の岩窟」に突入した挙げ句に馬鹿を(さら)して自滅した三人組、果ては「還らずの迷宮」に進入を試みた経済調査局の調査員――これも身分は一応冒険者――たちは(いず)れも、これでダンジョンアタックなど務まるのかと思いたくなる程アレな能力しか持たなかったのである。

 これに関しては、長らくテオドラム国内にダンジョンが無かったせいで、圧倒的に経験が足りてないせいだと判明したものの、その状況が改善されているとは言い難い。

 何しろ、現在テオドラムが有する二つのダンジョン――「怨毒の廃坑」と「災厄の岩窟」――は、どちらも冒険者の進入が規制されているのだ。隣国イラストリアにある「ピット」も、最近の凶暴化が著しいためギルドから「接触非推奨」に指定されているとなれば、テオドラムの冒険者がダンジョンアタックの経験を積む機会など無いも同然である。


 「盗掘者のカタコンベ」は、表向きはダンジョンでない事になっているが、その実は表コースも裏コースも(れっき)としたダンジョンである。明らかに経験値の足りていない――と言うか、ほぼゼロ――の二人には荷が重い……重過ぎるのではないか。



『いや、手加減するのは最初から想定のうちだったんだが……』

『その〝加減〟が難しゅうございますな』

『ただ生きて返した――っていうんじゃ駄目なんですよね? マスター』

『あぁ、「カタコンベ(ここ)」の事を〝美味しい狩り場〟だと思ってもらわなきゃならん。でなきゃテオドラムの冒険者どもを誘殺……誘致はできんからな』

『どう考えても、そっちの方が難しいような……』



 彼方(かなた)、ダンジョンの「ダ」の字も知らないような半素人の冒険者。此方(こなた)、ダンジョン界屈指の危険度を誇る〝クロウのダンジョン〟のモンスター。

 まともに戦えば、勝負の行方(ゆくえ)は明らかである。


 それを、どうやって〝手頃な難易度〟にまで落とし込むか……



()(かつ)と言えば()(かつ)だが……事前に練習や検証をしようにも……』

『テオドラムのやつらが入れるダンジョンって、無かったですからねー』

『あの国には……元々……ダンジョンの……適地が……残っていませんから……』

『建国以来、国を挙げて伐採や開墾に励んだそうだからな』



 魔力の滞留どころか対流も期待できない状況となり、或る意味ではフラットな環境を用意できたのだが、その反面で魔素や魔力に富む素材はほとんど期待できなくなっているのが今のテオドラムである。

 魔素や魔力、(しょう)()の滞留を前提として発生するダンジョンなど、最初から期待できる状況に無かった。

 数少ない例外の一つがシュレクの鉱山であったのだが、そこは既にクロウの手によって、凶悪なダンジョンと化している。テオドラムの冒険者如きが手を出せるような場所ではない。



『……()むを得ん。「(かえ)らずの迷宮」での経験を参考にして、小当たりに落としどころを探っていこう』



 ちょっと聞いただけでは妥当に思えるクロウの決定であったが、



『けどぉ、あの時のぉ、経験って言ってもぉ……』

(はし)にも棒にもかからん連中だという事が判っただけじゃろうが』

『何の警戒も準備も無くモンスターに()(くわ)して、這々(ほうほう)(てい)で逃げ出してただけよね』



 眷属たちからも相次いで疑問の声が上がったが、



『その程度の相手だと割り切って、最低ラインを狙っていくしか無いんじゃない?』



 ――というウィンの意見が妥当な……少なくとも建設的なものであると判断され、以後の方針(暫定版)が決定したのであった。


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