第三百十一章 変転「カタコンベ」 3.待ち人来たる
「……見ろよ。……ギルドの見張りらしいのが張り付いてるぜ」
リンツの商業ギルドでの訊き込みを皮切りに、そこから芋蔓式にアヤワト村、更に〝少し先の洞窟〟こと「カタコンベ」に辿り着いたボックとデックの二人は、そこで洞窟の入口を見張っている冒険者らしき男たちの姿を認めていた。
これまでの状況から、おそらくは冒険者ギルド差し廻しの監視役であろうと(正しく)当たりを付けた二人は、
「……しょうが無ぇ。他に入口が無ぇかどうか探すぞ」
「他の入口って……あんのかよ?」
疑い深げな口ぶりで問い質すデックであったが、ボックの答えは実に理に適ったものであった。
「あぁ? あるかどうかなんざ判らねぇが、それでも探すしきゃ無ぇだろうが。あそこの入口は見張られてんだからよ」
それもそうかと納得したデックを従えて、ボックは裏手――少なくとも、ボックにそう思えた側――へと向かう。見張りに気取られぬよう、こっそりと。
そして――そんな二人の動きに気付いていた者が、ギルドの見張り以外にいた。
・・・・・・・・
『何? 新たな冒険者の二人連れ?』
クロウがその吉報――吉報でなくして何だと言うのだ――に接したのは、ボックとデックが冒険者ギルドの監視役から身を隠している最中の事であった。
世間的には無害な(?)石窟遺跡を装ってはいるが、「盗掘者のカタコンベ」は歴としたダンジョン――それも、ダンジョンロード・クロウ謹製のダンジョンである。侵入者の接近を察知するため、洞窟入口の周辺もダンジョンの領域に含まれている。
なので、身を隠しているつもりの監視役も、その監視役の目を欺いているつもりのボックとデックも、等しくクロウの掌の上にあった。
冒険者ギルドとマナステラ王国の横槍――註.クロウ視点――によって、来訪者の確保は疎かダンジョンの周知すら妨げられているクロウにしてみれば、監視役の目を潜って「カタコンベ」に入り込もうと試みる者は、誰であれ歓迎すべき「客」であった。
なのでクロウの反応は……
『よぉしっ、折角のカモ……お客様なんだ。逃げられないよう、丁重にお持て成ししなくちゃな。四階層への直通路を開け』
――というものであった。
クロウの言う〝直通路〟とは、「間の幻境」でも採用している転移トラップを応用した誘導路の事である。
ちなみにこの誘導路、転移トラップを踏まなければ先へ行くほど細くなり、小動物程度なら通過できるが人間には――仮令それが子供であろうとも――通れない狭い通路となる。現地貴族の令嬢である「迷姫」リスベットの侵入対策も万全であった(笑)。
そして更に事態は進んで、
『ねぇクロウ、あの二人だけど……どうやらテオドラムの冒険者みたいよ』
『何? テオドラムだと?』
『うん。サウランドにいた精霊が、見憶えあるって言ってる』
『それは……益々お誂え向きってやつだな。ここは何としても無事にご生還戴いて、テオドラムから冒険者どもを連れて来てもらわんと』
シャノアの――正確にはシャノアに情報を伝えた精霊の――証言から、二人の価値が一気に跳ね上がる。ここは是非とも誘致を成功させたい。
『ふむ……テオドラムの冒険者だと、遺物風のお宝を落としても持て余すか?』
『この国で換金しようとすれば、否応無く目立ちますからな』
『しかし……テオドラムに持ち帰っても……換金の……手蔓が……あるかどうか』
『扱い易いものの方が良いじゃろうの。例えば金塊……』
『よし! 魔石だな!』
精霊樹の爺さまの言葉を途中で遮ったクロウによって、ドロップ品は魔石となる事が決定されたのであった。




