第三百十一章 変転「カタコンベ」 1.大勝負(その1)
さて――ハンスとカイトたちの一行が、モルヴァニアの国境山地でコットの廃村を発見した丁度その日、一人の冒険者が人生最大の大博奕に乗り出す決断を下していた。誰かと言えばボックとデックの燻り冒険者コンビ、その兄貴分のボックである。
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モルヴァニアはカルバラの町で情報屋のラスコーに出会い、互いに情報の遣り取りを交わした日から、ボックはむっつりと考え込む事が増えていた。弟分のデックはそれに気を揉みつつも、こういう時はとことん考えさせた方が良いと(経験的に)知っていたので、黙って見守りに徹していた。
それが功を奏したのかどうなのか、三日目にしてボックは――デック目線で――驚天動地の決断をしてのけたのであった。
「ひ……飛竜便でマーカスを越えて、一気にマナステラへ入るって……本気、いや正気かよ?」
日頃ボックの決断に異を唱える事の無いデックであったが、さすがにこの決定には異論をものせざるを得ない。
そりゃ、今までの蓄えを叩きさえすれば、乗合の飛竜便を利用する事ぐらいはできるだろうが……そんな大それた真似をする必要がどこにある? それも行き先はマナステラ? どこからそんな国名が飛び出して来た?
「落ち着けデック。俺だって伊達や酔狂でこんな事を言い出した訳じゃねぇ」
――そりゃあ伊達でも酔狂でもないだろう。こういうのは単に暴挙と言うのだ。
「いいから聴け。いいか、抑俺たちゃ『ロスト・ダンジョン』のお宝を戴くためにやって来たんだ。なのにイラストリアの間抜けどもに足止めを喰らってるうちに、マーカスのやつらに先を越されちまった」
「お、おぉ……」
それについてはデックも何ら異存は無い。だが、その事と飛竜便を奢る事との間にどういう関係が……
「ま、いいからもちっと黙って聴け。
「マーカスの連中に先を越されはしたが、やつらが見つけたなぁ――そりゃ、学問的にゃ大したもんなのかもしれんが――ショボくれた酒杯くらいだってぇじゃねぇか」
……既にこの辺りで情報の錯誤がある。
酒杯は自称・占い師がどこからか掘り出してきた――その実はアバンのドロップ品――代物で、「ロスト・ダンジョン」の出土品とは縁もゆかりも無い。だが、一々そんな些事に頓着しないのが、ボックの真骨頂である。
哀しい事にデックもそのボック節に慣れてしまったせいで、「追及」とか「突っ込み」とかの語が頭に浮かぶ事は無い。
「で――だ。『古代マーカス帝国』とやらがそこまでデカかったんなら、そしてその名残がマーカスやテオドラムにあるってんなら、他の場所に他の名残があってもおかしかぁ無ぇだろうが」
「他の場所……?」
話の筋は確かに通っているようだが、広大だったという古代帝国の版図を虱潰しに当たって、お宝を探し出すというのはあまりにも……
「ところが――だ。マナステラのどっかでお宝がめっかったって話があんのよ」
「マナステラ?」
それが事実だとするなら、「古代マーカス帝国」とやらと、何か関係があるのかもしれぬ。しかし……抑もその噂は真実なのか? そんな話はとんと聞こえてこないのだが?
「さぁ、そこよ」
「そこ……?」




