第三百十章 コットの廃村 3.不審な利用者【地図あり】
殺風景を絵に描いたような場所であろうとも、そこに精霊門が開かれるとなれば、近郷近在の精霊が集まってくるのが道理である。そして、それはつまり近郷近在の精霊情報が一気に集約される事も意味する。
そんな次第で集まって来た精霊情報の中に、少し気になるものがあった。
『怪しい風体の男が、コット村の空き家に滞在していた? 一月ほど前にか?』
『うん。それだけなら取り立てて気にする事も無いんだろうけど……その男って、どうもマーカス側から山を越えてコットへやって来たようなのよね』
『マーカス側からか……』
シャノア――このところ「精霊情報部」の責任者のような立場になりつつある――が持ち込んだ話は、クロウを些か考え込ませる事になった。ちなみに、
『〝怪しい風体〟というのは、具体的にどう〝怪しい〟んだ?』
『えっとね、冒険者とか狩人とか農民とか……要するに、この辺りで時々見かける人間とは違った格好だったんだって。長めのローブを被って杖を持って……魔術師か占い師みたいな格好だった――って』
『占い師か……』
丁度一月ほど前にマーカス側から移動してきた占い師……というなら、クロウにも心当たりが無くもない。
『レムダック家の連中を誑かして騒ぎを引き起こした占い師――か?』
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コットの廃村を密かに利用しているらしき者がいる――と、カイトたちからの報告があった時点で、その〝不審な利用者〟の素性が議論の俎上に載せられたのは当然の成り行きであった。
国境山地の中腹という廃村の立地を考えると、真っ先に思い浮かぶ可能性が、
『越境ルートの野営地か?』
マーカスとモルヴァニアの入出国が特に制限されていない現状に鑑みれば、不毛な山地を態々踏破する労を執って国境を越えようとも、取り立てて咎めるには当たらない。――ただ、便利な街道を使わないのが不自然なのと……
『……確か麓の連中からは、廃村を利用する者の噂は聞かなかったんだよな?』
――それはつまり、越境の事実を隠したがっているという事に他ならない。
こういう状況から直ぐに連想されるケースは、
『確かぁ、ァバンの廃村でもぉ、昔ぃ』
『あー……コソ泥っぽいのが取引の場所に使ってたっけ……』
『人を寄せ付けまいとして、幽霊の噂など流しておりましたな』
『今度のコレも同じなんでしょうか? 主様』
後ろ暗いところのある連中が、人目を避けてマーカス~モルヴァニア間の密貿易を行なっており、その野営地として利用されている……というのはあるかもしれない。しかし……
『利用者が……一人だけというのは……交易にしては……規模が小さいような……気が……しますし……間が……空き過ぎている……気も……』
『確かにな』
ギャングみたいな連中が関わっているのだとすると、互いに相手の事を信用できず、抑止力も兼ねてそれなりの人数でやって来そうな気がする。
余程に親しい者同士が交易なり会合なりを行なっている可能性は否定できないが、それはそれで別方向に不穏な気配がしないでもない。
しかし――ここへ〝一月ほど前に利用したのは、レムダック家を誑かしたペテン師〟という情報を追加するとどうなるか。
[コットの廃村]
『抜け道……か? しかしそうなると、レムダック家の一件以前から使用の痕跡があったというのは……?』
今回マーカスで騒ぎを起こした後、モルヴァニア側に逃げ込んで来たという事から察するに、このペテン師(仮)は、常習的にマーカスを稼ぎ場にしている一方で、モルヴァニアを隠れ家にしているという事なのだろう。
以前から主街道を使っていないのは、街道に手配が廻っている可能性を危惧しての事だろうし、前々からそんな配慮を示しているという事は、
『……別件でもマーカスを荒らしている可能性が高いのか……』
或る意味で危険人物である反面、定宿にしている廃屋で上手く盗聴を成功させれば、興味深い情報を得られる可能性もある。
幸いにして、彼が利用しているらしき廃屋は、精霊門が置かれた涸れ井戸とは離れた位置にある。
『……念のため、主立った廃屋の地下に諜報トンネルを仕込んでおくか』
拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、明日から七日間、21時に更新します。宜しければこちらもご笑覧ください。




