第三百十章 コットの廃村 2.廃村の素性【地図あり】
「あー……コットの村の事だの、そりゃ」
「コット村?」
「んでよ、今から……こぉっと……七十年? 八十年? 百年はいってなかった思うけんど……ともかく、そんくらい昔に棄てられた村だの」
廃村から撤退したハンスたちは、山地の麓で別の――こっちは放棄されていない――村を見つけ、そこで廃村の事を訊ねてみたところ、返って来た答えが上のようなものであった。
何でも、使っていた井戸が涸れたせいで農地を維持できなくなり、野生動物やモンスターの被害も無視できなくなったため、村を放棄したとの事であった。
「初めのうちは水も充分あったっつぅでよ。気張って畑を拡げたそうだがの。肝心の井戸が涸れてしもぅたもんで――」
「畑を拡げたのが裏目に出た――と?」
「んでよ」
涸れた井戸は未だに回復していないので、コットの村が再建される事は無いだろうとの話であった。
「あん辺りは大昔から水が足らんでよ。人の住める場所じゃねぇっつぅのによ」
「大昔から……?」
「んでよ。大昔から今まで、ず~~~~~~っとだでよ」
カイトたちは互いに目配せを交わすと、ハンスが代表して問いを放った。山地の向こう側、マーカスの領内では、大昔に人が住んでいた遺跡が見つかっているが、こちら側ではそんな話は無いのかと。
「ありゃせんわの、んなもん。大体、コットの村を拓くっつう時に、畑を作るべぇと散々っぱら辺りを掘っくり返した筈だでの。んなもんがあったら、そん時にめっかっとる筈だわの」
「ははぁ……」
それが周知の事実だというなら、血迷ったマーカス貴族が来襲する可能性は低そうだ。精霊門の安全保障を考える上では、喜ぶべき話に違い無い。これも併せて報告すべきだろう。
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「成る程……見事なくらい水気に乏しい土地だな」
ハンスたち一行からの連絡を受けて、直ちに馬車内にダンジョン転移――お忘れの向きもあるかと思うが、ハンスとカイトたちが乗用している「馬車」は、クロウの手になる歴とした「ダンジョン」である――したクロウは、コットの廃村を見渡していた。
何でこんな乾燥地に村を拓いたのかと不審に思ったが、ダンジョンロードの権能の一つである「仮想ダンジョン」で、地下の様子を調べて納得した。
「この涸れ井戸……地下水脈ではなく宙水に繋がっていたようだな」
「宙……水?」
「何すかそりゃ?」
「あー……解り易く言えば、地下の不透水層の上にできた水溜まりだな。地下水脈と違って水の新規供給が乏しいから、溜まっている水を使い尽くすと……」
「あー……涸れちまうって訳っすか」
元々利用できる水量に制限があったのに、気を大きくした村民が耕作地――水の消費地――の拡大に走ったせいで、汲み上げ量の増大に耐えきれず涸渇したらしい。
そのせいで少なくない村民が村を離れたため、減少した人口では広がった農地を維持できず、野生動物やモンスターの被害を防ぐ事もできなくなって、
「村が放棄された訳ね……」
「無計画な開発が思惑を破綻させた典型だな」
通過点とは言え精霊が一時滞在するには少し乾燥し過ぎているようにも思えたし、万一の場合にモンスターを派遣して侵入者を蹴散らすのが――違和感があって――難しいかとも思えたが、
「いや、確かに鬱蒼とした森林は無いが、茂みくらいはちらほらあるし、何よりも村が放棄された理由の一つが野生動物やモンスターの被害なんだから、ヘルファイアリンクスかゴーストディンゴくらいは動かせるだろう」
「ヘルファイアリンクスにゴーストディンゴっすか……」
「下の村が大騒ぎになりそうですね……」
幾許かの懸念が無い訳ではないが、とにかく精霊門は数を揃えてナンボであるとの判断から、「コットの涸れ井戸」に――正確には、涸れ井戸の壁に穿った小さな横穴の奥に――精霊門を開く事が決定された。
[コットの廃村]




