第三百十章 コットの廃村 1.廃村発見
マーカスの「古代帝国仮説」とマナステラの「石窟遺跡」が――正確にはその情報や噂話が悲喜劇マシマシに絡まり合って、面白可笑しい展開を見せている頃、そんなドタバタ騒ぎとは離れたところに身を置く者たちが、ドラマの新たな舞台に現れた。誰かと言えばハンスたちの一行である。
混沌としたマーカスの情勢を探るべく彼の国へと送り込まれた彼らであったが、思いがけないヤルタ教の乱入のせいで、任務半ばにしてマーカスからの撤退を強いられる。
不完全燃焼気味の屈託を抱えた一行が、せめて精霊門の適地ぐらいは探して見せようと、マーカスとモルヴァニアの国境を成す山岳地帯のモルヴァニア側、別の言い方をすれば「レムダック遺跡」の反対側へと分け入ったのであった。
その情報を人伝に聞いたボックとデック、ついでにラスコーが、見当違いの誤解を抱えた件については蒸し返さないが……それはともかくハンスたちである。
人跡も稀な山径を、それこそ「レムダック遺跡」の裏側から更に奥へと分け入った彼らの意地と努力を神が天晴れと嘉したもうたのか、主街道から二百キロほども奥まった山の中腹で、お誂え向きの場所を見つける事に成功したのである。
・・・・・・・・
「廃村……みたいだな」
「空き家の朽ちた様子からみると、放棄されたのはかなり前だと思いますよ」
気配を探って隠れている者などがいない事を確かめた上で、カイトたちが辺りの様子を調べて廻った。その結果明らかになったのは――
「誰かがここを利用した痕跡がある? 確かですか?」
「あぁ。使ってたやつも隠す気が有ったのか無かったのか、目立つ足跡を消すくれぇの事しかやってなかった。そのせいで、却って作為が目立った訳だけどな。
「使われてる空き家は一軒だけ。残ってる足跡から見て、使ってるなぁ一人だけ。ついでに言っとくと、最後に使ったのは精々一月ほど前の事みてぇだな」
――斥候役の報告を受けて、ハンスを含む一同は考え込んだ。
精霊門の候補地を探していて、廃村という物件に出会したのは重畳だが、そこを度々訪れている者がいるというのは考えものだ。
「……冒険者が野営地に利用してるんでしょうか? 嘗てのシャルドのように?」
シャルドは今でこそ著名な観光地だが、少し前までは旅人が野営に利用する程度の廃村に過ぎなかった。ハンスの意見はその頃の事を踏まえてのものであったが、
「シャルドは一時モローとバンクスを結ぶ街道の宿場町として栄えていたからな。モローが廃れてからは街道もめっきり寂れちゃいたが、それでも利用する者がいなかった訳じゃない。そんな旅人がシャルドを野営地に使ってたのも、或る意味じゃ筋の通った話なんだが……」
「こかぁ街道筋でもなんでもねぇからな」
「狩りのキャンプとして使ってる……というのはありそうだけど……」
「ソロでここまで狩りに、それも何度か足を運んでいるというのは……」
――些か訝しい話ではある。
しかしその一方で、好奇心を掻き立てられる話でもある。
だがまぁそれはそれとして、ここが精霊門の開設地たり得るかどうか、その適性については先に調べておく必要がある。
一行は改めて周辺状況の調査に向かった。その結果……
「水の気はまるで無いわね。一時的ならともかく、長期の滞在には不向きな場所だわ。定住なんか以ての外よ」
「けど、耕作地だったらしい場所はありましたよ? それも結構広い範囲に」
「涸れ井戸は幾つかめっかったし、それを水源にしてたんじゃねぇか?」
「で――水が涸れたんで村を捨てた、と」
「ありそうな話に聞こえますね」
「しかし……少なくとも入植があったからには、水源は有望と見られていた筈です。水脈とか気候の変化があったんでしょうか?」
モルヴァニアでそこまで大きな環境変化があったのなら、史書に残されていない筈が無い。しかし素人歴史家を自認するハンスは、そういった記述を目にした憶えが無い。
だが……この現場で探り出せそうなのは、これくらいが限度だろう。
「涸れ井戸を利用すれば魔力の滞留はできそうだし、精霊門の開設も不可能ではないと思うけど……」
「こうも乾燥した場所を、精霊たちが利用しますかね?」
「いや、乾燥してるとは言っても、山手の方にはそれなりの茂みもあるし、そこまで悪い立地じゃないんじゃないか?」
「そうそう。精霊門なんて、どうせ通過点に過ぎないんだしよ」
「カイト……貴方ねぇ……」
「まぁ、とにかく報告だけしてこの場を離れよう」




