第三百九章 「カタコンベ」混乱絵巻 5.クロウ(その2)
『そのうち出て来るかもって、思ってるんじゃないですか? マスター』
『それはぁるかもぉ……』
『出土品のヴァリエーションだけは幅広かったですしね』
キーン・ライ・ウィンの指摘に、思わず考え込むクロウ。ノンヒュームに対する執着ぶりを考えると、そういう事もあるかもしれないと思えてくる。
要は、〝この先出土するかもしれないノンヒュームの工芸品を、マナステラ王国だけで独占したい〟という事なのだろうが……
『……だとしても、どうしてこんな迂遠な真似を? 軍でも何でも差し向けて、公式に封鎖してしまえば早いだろうに』
元テオドラム軍将官のペーターが、職業的視点からの疑念を表明するが、これに異を唱えたのが、元・米海軍巡洋艦のクリスマスシティーと魔術師のネスであった。
『現状でノンヒュームの工芸品がドロップしていませんし、この先ドロップするかどうかも確証が無い筈です。そしてノンヒュームが関わってこない以上、マナステラ王国がこれに強権を以て介入するのは、民間人の反発を買うと思ったのでは?』
『それに、二番手の連中がギルドを出し抜いたという事実もある。下手に動いてこの件が大っぴらになると、新たな盗掘を誘発する虞もある……マナステラはそれを警戒したのやも』
『成る程……』
確かにそれはあり得ぬ事ではない。
実際にクラブとペスコ以外の盗掘者がやって来ていない事を考えると、マナステラの用心が功を奏したと言えなくもない。
問題は、そういった事情(推定)に鑑みて、クロウたちはどういう態度で臨むべきか。
『う~む、ドロップを古美術品にしたのが裏目に出たか』
『お主のダンジョンではいつもの事じゃの』
爺さまの皮肉を素知らぬ顔で聞き流し、クロウは晴れ晴れとした声で宣言する。
『よし! これはもう魔石だな!』
『『『『『………………』』』』』
クロウが日夜量産に励んでいる魔石は、何しろ内包する魔力が大き過ぎるせいで、表沙汰にできない状況が続いていた。
しかし、「カタコンベ」のドロップを古美術品とした事で問題が発生した以上、ドロップ品の変更も視野に入れる必要が生じた。そして――今現在手軽に用意できるドロップ品の候補と言えば、クロウの魔石に如くは無いというのも事実である。
眷属的には甚だ遺憾ながら、ドロップ品を魔石に変更したダンジョンを用意するしか……
『あれ? だったら主様、魔石をドロップする新しいダンジョンをお造りになるんですか?』
『……それも面倒だし、第一時間が無いだろう』
新たなダンジョンを設計・施工する手間も然る事ながら、そのダンジョンを人間たちに周知させるのも時間がかかる。その面倒を嫌ったクロウは、
『よし、「カタコンベ」の下層を模様替えして間に合わせるぞ』
……という、リサイクル策を採る事にする。具体的にはどうするのかというと、
『未開放の三層か四層をそのまま流用する。基本的な構造はそのままだが、財宝の埋設は無しでいく。モンスターに有効打を与えた場合、姿を隠して魔石を残すようにする』
『要するに「百魔の洞窟」と同じですね』
『でもぉ、似てる事に気付かれたらぁ』
『……「カタコンベ」も……ダンジョンではないかと……疑われる……可能性が……あります……』
『その点は如何なさいますか?』
『……「百魔の洞窟」と違って爆煙は無しだ。土砂に潜って姿を消す方向でいく』
『地中性のモンスターなら、それでいけそうですけど……』
『地上性のモンスターは、出番無しなんですか? マスター』
『いや、そいつらの場合は、暴れた衝撃で壁や天井が崩れて、生き埋めで終わらせる。魔石は……そのケースだと残るのは不自然だな。只働きという事にさせてもらおうか』
『わぁ、気の毒♪』
『そうすると、二層のモンスター用出入口はどうします?』
『……間違えて入られても面倒だな。封鎖……いや、小動物が侵入できる程度の開口部だけ残しておけ。モンスターの餌がそこから入り込んだと思われるようにな』
『新しい……階層は……完全に……「カタコンベ」と無関係……という事に……?』
『……それはそれで、後々の自由度が減りそうだな。……そうだな、最初はどちらとも判断できないようにしておくか。どうせ「カタコンベ」二層以下の攻略も、そう早々とは進まんだろう』
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……という具合に「カタコンベ」の改装が為された訳だが、その作業が迅速に行なわれた結果、冒険者ギルド差し廻しの偵察員は、「カタコンベ」二層の〝勝手口〟を見つける事ができなかった。
いや、正確に言えば見つけはしたのだが、〝こんなちっこいのがダンジョンの入口なもんか〟と常識的な判断を下したために、ギルドには報告すらしなかったのだ。
そして……この事が新たな展開の呼び水となるのだが……それには今少しの時間が必要であった。




