第三百九章 「カタコンベ」混乱絵巻 3.冒険者ギルド
さて――国務会議からカタコンベ案件を丸投げされた冒険者ギルドであるが、〝上に政策あれば下に対策あり〟とは能く云ったもので、不平を慣らしつつも何かあったら〝自分たちはお上の指示に従っただけ〟と言い抜ける気満々であった。〝狐と狸の化かし合い〟は、何時の世でも何処の地でも、絶える事は無いものらしい。
とはいうものの、冒険者ギルドとて組織防衛のためだけに存在している訳ではない。マナステラ当局のそれとは別視点から、彼らは「カタコンベ」の不可解性に困惑していた。
――あそこは本当に唯の石窟なのか?
第二層にモンスターが屯していたというのは、偶々そこを好適な棲み場所とするモンスターが集まったためと見る事もできるだろうが……
「一体だけたぁ言っても、アンデッドが出たってのが……どうもなぁ……」
「アンデッド」と一口に云っても、それは①動く屍体、②霊体、③その他(吸血鬼・リッチ・デュラハンなど)に大別される。
今回確認されたのは①の動く屍体、正確に言えばスケルトンであるが、これらは更に生前の妄念に駆られて動いてるものと、屍体や骨に悪霊などが取り憑いて動かしているものに分けられるが……どちらの場合も、発生の引き金となるのが瘴気や魔力の澱みである。
言い換えると、アンデッドが出現している以上、そこには瘴気や魔力の澱みが存在している筈である。
「……なのにスケルトンドがいた辺りにゃあ、そういったもんは見られなかった。も一つおまけにそのスケルトンは土に埋まってて、掘り出すまで動けねぇ様子だった」
これが何を示唆するのかと言うと、
「……アンデッドを発生させるだけの瘴気溜まりが他にあり、スケルトンはそこから移動して来た――と?」
「そう考えりゃ筋が通るだろうが?」
石窟遺跡の全体が実はダンジョンであったというオチも思い付くが、
「一層はともかく、二層への階段の途中から下は、壁が滅法崩れ易かったってぇからな。ダンジョンって線は無ぇだろう」
「ダンジョンの壁は例外無く破壊不能というのが大原則ですからねぇ」
――実は、「流砂の迷宮」という例外中の大例外はあるのだが、その「流砂の迷宮」から生還した者はいないため、その情報は知られていなかったりする。なので従来の「常識」に基づいて判断すれば、前述の結論に至るのも無理のない話であった。
しかも念の入った事に、
「前回の調査でも、ダンジョン特有の魔力は感知されなかったそうだからな」
「ダンジョンでないのは確実ですか」
……違う。
魔力の漏出でダンジョンであると看破されるのを嫌ったクロウが、召喚した鬼火に命じて遊離魔力を吸収させた結果、〝ダンジョン固有の魔力〟が感知されなかっただけだ。
だが、そんな舞台裏を知らないランスの冒険者ギルドは、見事クロウの見込みどおりの結論に辿り着いたという次第なのであった。
「話を戻すが……そうすると、考えられる可能性は二つある」
「二つ……ですか?」
「あぁ、まぁその一つは、〝考えられなくもねぇ〟って程度の無理筋なんだがな」
ギルドマスターの宣うところに拠れば、第一の可能性として考えられるのは、
「二層以下のどっかから外へ抜ける穴があって、アンデッドやモンスターはそっから出入りしてるって可能性だな」
「成る程……」
「納骨洞」を通る道には、モンスターの移動した痕跡は無かったというが、これも他にある出入口から侵入したと考えれば納得できる。
「つまり……石窟の外に未知のダンジョンがある?」
「その可能性は否定できんだろう?」
ランスの冒険者ギルドとして、これは看過し得ざる大問題である。狩り場稼ぎ場がどうだという以上に、安全保障上の一大事案ではないか。早速にも探索班を派遣して……
「慌てんなって。可能性だけで言えば、もう一つあるんだからよ」
「その……もう一つの可能性というのは……?」
「あぁ。石窟の二階層から下にも階層があって、そこがダンジョンになってるって可能性だな」
「……はい? しかし……石窟は確かダンジョンではないと……?」
「そりゃ一層と……精々が二層までの話だろうが。それより下に階層があったとしても、見に行ったやつらはそこへの入口を見付けられなかたんだから、ダンジョン化の判定なんてできてる訳が無ぇやな」
「あ……確かに……」
「ダンジョン化が上層まで進まなかったのは、一層の『聖域結界(仮)』ってのが効いてるのかもしれんしな」
「あぁ……あり得なくもないですね」
だが待て暫し。
……その場合、ダンジョンはどうやって獲物を確保しているのだ? ダンジョンに入って来る餌食がいなければ、ダンジョンは生き存える事はできないのでは?
「だからな、他の出入口がある筈……ってなぁ既定な訳よ。あとは『ダンジョン』が石窟の中にあるか外にあるかの違いだな」
「最低でも、〝他の出入口〟を探すのは決まりですね」




