第三百九章 「カタコンベ」混乱絵巻 1.ロイル家
ここまでは、「カタコンベ物語」の第一部で主役を張った二つのチーム――「一攫千金」と「クラブ&ペスコ」――のその後にスポットを当てて紹介してきたが、ここからは少し視点を変えて、マナステラ当局をはじめとする各方面の反応とその後の展開について見ていく事にしよう。
話は二ヵ月少々遡って、報せを受けたロイル卿が急遽マナステラへ帰国したところから始まる。
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「……これは本当の事ですか?」
「答える私としても遺憾なものがあるが……全て事実だ」
「何て事に……」
当代ロイル卿の不在中に留守を預かっていた先代ロイル卿から渡されたのは、一つには出入りの骨董屋が入手した〝遺跡からの出土品と覚しきもの〟についての調査結果であった。件の骨董屋による目利きの結果と、ロイル家お抱え学者による予備鑑定が中心となっている。
その鑑定結果も色々と物議を醸しそうな内容が揃っているが、もう一つのレポートもそれに負けず劣らず厄介なものであった。先代ロイル卿が抜かり無く収集していた、マーカスの「古代帝国仮説」騒ぎについての情報である。
両者それぞれを独立に渡されたのなら、ロイル卿もここまで悩乱はしなかったであろうが……この二つが揃ってしまった場合、甚だ厄介な……それこそ不発弾並みの爆弾案件と化すのである。
――まずは骨董屋からもたらされた、〝出土品〟の調査結果から見ていこう。
「……〝問題の事物が示す諸特徴は、ノンヒュームの手になるものとは異なっている。また、ノンヒュームの作風を取り入れようとした痕跡も見当たらない〟……残念なような、安心したような、何とも言えない結果ですね」
「あぁ。マナステラ王国としては、ノンヒューム作の工芸品が手に入らなかったのは残念だが……一方で〝ノンヒュームの墓を暴いた〟などと非難される虞もあったからな」
墓を荒らしたのは冒険者であり、自分たちは関係無い――と、高を括れる状況なら好かったのだが……現在の状況は、そんな傍観者的態度が許されるような気配ではない。下手をすると、出土品(仮)を購入した店がロイル家の出入り商人だというだけで、自分たちまで迸りを喰らう可能性もあったのだから、ロイル卿の安堵も故無きものではなかった訳だ。
だから……ロイル卿が頭を痛めている理由はそこではない。問題なのは……
「〝当該試料群の持つ特徴は、これまでに確認されたどの時代・地方のものとも類似しておらず、明確な独立性を示している〟……これがそこまで問題に?」
「出土品(仮)それだけを見た場合には問題無い。問題なのは、これらの事物が示す特徴が、マーカスの一部貴族に対して強い訴求性を示すのではないか……という事だ」
「『レムダック遺物』ですか……」
先代が懸念しているのは、マーカスでの騒ぎに今回の出土品(仮)が、そして延いてはマナステラ王国が巻き込まれる可能性であった。
「何しろレムダック家の秘密主義のせいで、件の『証拠品』の概容が判っておらん。公にされているのは、〝他に類を見ない〟という文言だけ。そしてこの文言が独り歩きを始めた結果……」
「……〝他に類を見ない〟ものは遍く「古代マーカス帝国」の遺物である……そう主張する輩が現れると?」
「その可能性があるだけでも無視はできんだろう」
「確かに……」
先代は大きく溜め息を吐くと、
「国務会議だか国王府だかには、既に『石窟遺跡』から出土した品々、もしくはその資料が届いている筈だ。それらと照合すれば、こっちの出土品(仮)がそこから盗掘されたものなのかどうか、確かめる事もできる。さっさと情報を纏めて報告した方が良い。……これは現当主であるお前の仕事だからな」
「……手っ取り早く先代当主が報告して下さってもよかったんですけどねぇ」
「真っ平だ。さっさとやれ」




