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第四十七章 ヤルタ教の周辺 4.ヤルタ教中央教会

混乱と困惑はヤルタ教の側も同じです。

「なぜ、そのような話になるのだ!?」



 ヤルタ教教主ボッカ一世は、部下の報告に思わず罵声を上げていた。



 シャルドで新たに発見されたダンジョンの遺跡が聖魔法を帯びていたという報告を聞き、ヴァザーリのスケルトンドラゴンとの類似性・関連性を臭わせる事によって、遺跡の独占を目論む王家を牽制、あわよくば民心の離反と王家の権威の失墜を計る。狙いとしては悪くなかった筈だ。


 ……なのに、どこをどう巡れば、主神ヤルタが民を見捨てたなどという話に辿(たど)り着くのだ?



 教主は乱れる思いを鎮めようと酒杯に手を……伸ばしかけて、さすがに部下の目の前でそれはないかと思いとどまった。



「それで……そのような(らち)も無い話が、どの程度広がっておるのだ?」



 教主の問い掛けに対して居心地悪そうに答える部下。



「それが……冒険者や市民などの間では、あちこちでそのような話が(ささや)かれている様子で……いえ、あからさまにヤルタ神の御慈愛を疑う者はおりませぬが、不安になっておる様子なのも事実。ヤルタの神が民を見捨てる事は無いと、早いうちに示さねば、民草(たみくさ)の動揺は収まらぬかと」



 これは(まず)い。教主は考える。このまま放置しておけば、民の間に芽生えた不安はヤルタ教に対する疑念に育ち、権威の失墜に繋がりかねない。部下の言うとおり、早いうちに手を打たねば……。



「ヴァザーリの教会は? 何の策も講じておらぬのか? 手を(こまね)いて見ておるだけか?」



 部下は居心地悪げに身じろぎするばかりで、何も答えようとしない。その態度が何よりも雄弁に答を示していた。



(あの(うつ)け者どもが……早急に手を打たねば教会の権威が揺らぐぐらいの事に気が付かぬのか。……それとも、気付いてはいても打つべき手を思いつけぬのか。どちらにしても使えぬ者共よ……)



 乱れる思いに耐えきれず、教主は酒杯に手を伸ばす。ふと思いついて、部下にも一杯振る舞う事にする。賄賂ではない。これは心配りというものだ。


 恐縮する部下に酒杯を手渡した後、教主は自分の盃をぐいと空ける。こんな面倒事、素面(しらふ)でどうこうできるものか。


 一気に(あお)った酒のせいか、教主はふとある事に気付く。



(王家は何を考えておる?)



 こちらが放った牽制の一手は歯牙(しが)に掛けぬとしても、王家が悪神バトラと組んで――我ながら上手い言い掛かりだが、少々効き過ぎた感もあるな――ヴァザーリを攻めるなどという話については、さすがに王家も無視できぬ筈。南部諸侯の同様と反撥(はんぱつ)を招く事は国すら危うくしかねない。ヤルタ教に対する反感はあろうが、そこまで危ない博奕(ばくち)を打つとは思えぬ。放っておけば(まず)い事になるのは、我がヤルタ教の比ではない筈。なのに……



(なぜ、王家は動かぬ?)



 急な展開に頭と動きがついていけず、後手後手に回っているのか。いや、と教主は(かぶり)を振る。


(王家が今この時に、しかもあっさりとダンジョンの遺跡を掘り当てた。この事一つをとっても、王家と魔の者が通じておるのは明らか。ならば、ヴァザーリの一件以来、こういう日が来るのは予測できていた筈。なのに、なぜ南部の騒ぎを放置している?)



 実際には、Ⅹことクロウと王家の間には密約など存在しない。好き勝手に事態を引っ掻き回すクロウに王家が振り回されているだけで、当然、「封印遺跡」の発掘によって王国南部の情勢が不穏になる事など予測できよう筈がない。教主の大いなる勘違いであった。



(全ては計画のうちなのか? それとも、あえて座視せねばならない理由でもあるのか?)



 教主の勘違いは続く。



「まだ、何か隠しておる事があるな……」



 教主は我知らず口に出していた。



「い、いえっ 教主様に隠し立てなど……」



 狼狽(うろた)えた部下の声を聞いて、教主は自分が考えを口に出した事に気付いた。苦笑いして訂正する。



「あぁ、済まぬ。そなたの事を言ったわけではない。……じゃが、今の独り言については口の()(のぼ)さぬようにな」



 きちんと釘を刺しておくのも忘れない。部下を下がらせて、教主は更に考えを巡らす……酒杯の数を重ねながら。



(王家としても、王国南部が不穏になっている今の状態は容認できぬ筈。仮に王家が魔族と(よしみ)を結んでおり、武力で南部を鎮圧する力を持っていようとも、情勢の再安定化までに要する時間と労力を考えれば、戦乱を望む筈はない。人情などではなく、為政者の計算がそれを(がえ)んぜぬ筈。ならば、南部の民心の安定化はこのまま王家に任せるのも手か?)



 教主は酒杯を重ねつつ考えを進める。



(いや、南部の安定化はこちらとしても望むところだが、王家の主導でそれが成されるというのは面白くない)



 教主は更に盃を重ね、様々な方策の比較検討を進めてゆく。



(かと言って、今の教団には真っ向から王家と事を構えるほどの力は無い。正面からの対決もならず、今更王家に尻尾を振るのもならずとなると……ここは受け流すしかないか)



 教主は腹心を呼び寄せると、ある策を急ぎ実行するよう命じた。

教主が打った手については明日の更新で。

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