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第三百六章 地図に無い道 4.テオドラム国務会議(その2)【地図あり】

 ――なんていう、可笑(おか)しな話も飛び出て来る。いや、当人たちにとっては〝可笑(おか)しい〟どころではないのだろうが。



「陽動と言い切っていいのかどうか判らん。実際に補給路が整備されているのだからな」



 ……どうやら、アラドから監視砦に至る「緑道」は、砦への補給路という事になったらしい。



「だが……補給路としては微妙だとか言っていなかったか?」

「それに、武器や食糧の補給を考えるなら、アラドでなくクートかカルバラだろう。道路が国境に近付き過ぎているという点を別にしても」

「いや……単に補給路を増やしたいというなら解らんでもないが……」

「だとしても……なぁ?」


挿絵(By みてみん) 

[モルヴァニア~マーカス周辺地図]


 モルヴァニアの狙いが解らずに困惑する国務卿たちであるが……当然である。

 モルヴァニアが(もく)()んでいるのは、シュレクのダンジョン「怨毒の廃坑」に対する安全保証、次点でその近辺の状況を探る事である。その動きの中で、ダンジョン村から塩の密交易などというヤバい案件が持ち出されてきたので、その対応の一環として――大概にぶっ飛んだ発想ではあるにせよ――アラドからの道路のアメニティ向上を図っただけだ。そこに軍事行動というテイストは露ほども無い。

 だが……そんな裏事情などテオドラムに解る訳が無いし、解ってもらっては困るのも事実である。


 ――その結果、テオドラム王国軍務部は、これまた可笑(おか)しな三題(さんだい)(ばなし)を組み上げる事と相成った。



「それに関しては、軍務部(うち)の若手が(もっと)もらしい仮説を提案している」

「ほぉ……」

「聞かせてもらおうではないか」



 うむ――と、勿体(もったい)ぶった態度で、レンバッハ軍務卿が()説を始める。



「前にも言ったように、旧道で為されている〝整備〟の内容は、徒歩(かち)の旅人の疲労を緩和するものだと考えられる。即ち、モルヴァニアが想定している〝通行人〟は徒歩(かち)の旅人という事になる。……馬車を連ねた商隊(キャラバン)などではなく――な」

「うむ……」

「確かに……」

「となると――だ、運ばれるべき荷は、大量輸送を旨とする食料や武器ではない。……言い換えれば、それ以外の日用品という事になる。……違うか?」

「日用品だと……?」

「待て……それはつまり……」



 何かに気付いた様子の国務卿たちが僅かに顔色を変えた。



「……気付いたようだな? 先を続けるぞ。砦が必要とする日用品が増えるという事は、それらを消費する人員が増える、つまりは砦の兵員数が増えるという事を意味する。そして、その供給を委託されたのはアラド。……言い換えると、軍備や食糧の供給を任されているのとは別の町だ」

「……クートやカルバラの負担を軽くするためか……」

「駐在兵員数が増えるという事は、装備や兵糧の量も増えるという事だからな」



 ……違う。

 繰り返して言うが、モルヴァニアは監視砦の兵力増強などという事は考えてもいない。

 だが――モルヴァニアの真の狙いが解らないままに現状を説明しようとすれば、この仮説に相応以上の説得力があるのも事実なのであった。



「……モルヴァニアが砦の増強に走った理由は?」

「現時点では解っておらん。ただ、ここで指摘しておきたいのは、モルヴァニアはそのためだけに、街道の緑化などという労を敢えて費やしたという事だ」

「……モルヴァニアは本気という事だな?」

軍務部(われわれ)はその可能性を憂慮している」



 (おごそ)かに言い切ったレンバッハ軍務卿を前にして、う~むと(うな)るばかりの国務卿たち。モルヴァニアが即時開戦に踏み切るとまでは思えないが、監視砦の強化に走るのは確かなようだ。

 ――で、あれば……テオドラムとしてもそれに対して備えを厚くせねばならない。



「……シュレク砦の建設を再開しろというのか?」

「他に手があるか? 次善の策と言えそうなのはウォルトラムとニコーラムの兵力増強だが……こっちの方が問題だろう」

「「………………」」



 当然という顔付きで意見を述べるレンバッハ軍務卿。対するファビク財務卿とジルカ軍需卿は渋い表情を隠さない。



「シュレク砦の兵力削減は、ダンジョンとモルヴァニアが動く気配を見せないという前提で()された筈だ。その前提が――部分的にとは言え――(くつがえ)された以上、兵力の見直しが必要になるのは自明の理だろう」

「「………………」」

「何、我々も財政上の苦境について知らぬ訳ではない。以前のレベルに戻せとは――少なくとも現段階では――言わんよ。ただ、若干の兵力増強と、それに伴う居住条件の変化に対応してもらえれば、な」

「「………………」」



 やんわりとした言葉遣いでシュレク砦の拡張を迫る軍務卿に、打つ手無しと見た財務卿と軍需卿が――渋々と――(うなず)く。……これで、シュレク砦の工事再開が決定された。



・・・・・・・・



 テオドラムの動きが関係各位各国に伝わり、モルヴァニアが(本当に)監視砦の兵力増強を決定するのと、シュレク砦の工事再開を聞いたクロウが快哉を叫ぶのは、今暫く先の事であった。

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