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第三百四章 特命調査員ラスコー、モルヴァニアへ  13.冒険者の話@カルバラ(その2)

「ははぁ……それは災難でしたね」

「おぉ、全くよ」

「あいつらが邪魔しなきゃ、今頃はロスト・ダンジョンのお宝をめっけてた……かもしれないってのによ」



 いや、サウランドとマーカスでは事情が違うだろう……などという無粋な突っ込みは脇に()いて、ラスコーは相槌(あいづち)を打つに留めていた。

 このボックとデックという冒険者――兄貴分らしき方はヤルタ教の教主と名前が似ているが……恐らく無関係だろう――は、マーカスを通ってここカルバラにやって来たという。それだけでも話を聴く価値はあるというものだが、何とこの二人、サウランドでの「ロスト・ダンジョン」騒ぎの当事者だというではないか。

 そこはラスコーも情報屋の端くれだから、ロスト・ダンジョン仮説やプロト・ダンジョン仮説についても通り一遍の事は承知している。――が、さすがに当事者から(じか)に聴くのは一味違う。

 マーカスで噂のレムダック遺跡とやらも、ロスト・ダンジョンという観点で眺めると、見えてくるものは(おの)ずと違ってくるものだ。


 これは思いがけず良いネタが手に入った。マーカスの貴族たちと交渉するにも使えそうだ――となったのだが、待て(しば)し。このネタはそうそう安易に使っていいものか?

 このネタを切り出せば当然の流れとして、ロスト・ダンジョンに該当する場所はどこだという話になるだろう。ダンジョンの情報など、冒険者ギルドに問い合わせれば()ぐに判る。情報としての価値など無きに等しいが、話の接ぎ穂としては必要か。


 マーカスの貴族が知りたいのは、当然自国周辺のダンジョン情報だろうが、それなら沿岸国の出る幕は無い。イスラファンのベジン村に端を発する化物道中の話など、疑うに足るネタは幾つかあるが、今回取り上げる必要は無い。

 沿岸国と言えばヴォルダバンで、シェイカーなる盗賊団が(ねぐら)にしているのが廃ダンジョンだという話があったが……これも今回は触れる必要は無いだろう。マーカスからは遠く隔たっているし。


 さて、マーカスの隣国モルヴァニアは、これはマーカスも同じだが、国土は草原が主体で山林は少ない。そのせいか、ダンジョン発生の要件となる魔力溜まりや(しょう)()溜まりも多くない。過去の討伐ダンジョンとなると(いささ)か勝手が違うが、少なくとも有名どころは無いと見ていいだろう。

 仮想敵国のテオドラムについては検討する必要も無いだろうし、第一あの国は建国時に山林を伐採して農地に変えたため、ダンジョンなど跡地すらも残っていない。冒険者もイラストリアに出稼ぎに行っていたくらいだ。今でこそ「災厄の岩窟」と「怨毒の廃坑」という二大ダンジョンを有しているが、取り敢えず「ロスト・ダンジョン」の検討からは除外される。

 イラストリアはダンジョンこそ多いが、逆に討伐ダンジョンというのが少なかった筈だ。自分が知っているのはモローの旧ダンジョンと、他には「バモンのダンジョン」というのがあったそうだが……これも後で確かめておこう。

 マナステラには「百魔の洞窟」という大ダンジョンがあるが、他のダンジョンの事は聞いた記憶が無い。……いや、「百魔の洞窟」については何か話を聞いたような気がするが……これも後日確かめておくか。


 ロスト・ダンジョンのネタに詳しそうなのは、目の前にいる男だろうが……この場でそれを訊くのは、余計な警戒心を掻き立てるだけに終わりそうだ。冒険者ギルドに問い合わせるのが妥当だろう。

 どうせダルハッド先生から紹介してもらった骨董屋をはじめ、何軒かの店を巡るつもりでいたのだ。ギルドが付け加わったところで、大した違いは無い


 ……目の前の男に問い(ただ)すのは、古代マーカス帝国騒ぎに限るとしよう。



「つってもな、俺らはあの国(マーカス)は通って来ただけだから、あんまり詳しい事ぁ知んねぇぜ?」



 下馬(げば)(ひょう)程度の事なら話せるが、ネタの(しん)(ぴょう)(せい)は請け負えない。そう断りを入れたボックであったが、



「それは構いません。事実と噂が違っていれば、それはそれで一つの情報になりますから」

「はぁ……そんなもんかね」



 ボックとデックの語るマーカス情勢は、既にラスコーが耳にしているものと大差無かったが、ネタの真打ちはその後にやって来た。

 二人がマーカスとの境界を越えて、国境を成す山地に足を伸ばそうとしたところで……



「マーカスの貴族らしいのに先を越された? ……確かですか?」

「確かかって訊かれりゃあ、そうとは言えねぇ。俺も話を聴いただけだからな。情報源(そいつ)の言う事にゃ、何だか立派な馬車に乗った連中が、国境の山へ向かう道を訊ねてたそうだ。そいつも詳しい事情は訊いてないそうだが……今のこの時期にマーカスとの国境の山、正確にはそのモルヴァニア側に向かう貴族とくりゃあ……」

「……マーカスの貴族以外に無いでしょうね……」



 一同の意見は目出度(めでた)く一致を見たが……違う。


 それは〝遺跡探索に向かうマーカス貴族〟などではなくて、〝精霊門の適地を探すカイトたち〟であったのだ。

 まぁ、ダンジョンは魔力が()(しゅう)(たい)(りゅう)する場所に発生し易く、それは精霊門の適地と重なるので、まるっきりの的外れとも言えないのだが。



「お二方は後を追わなかったんですか?」

「他人の後塵(こうじん)を拝するってのが我慢できねぇ(たち)なもんでな」



 ふむ――とラスコーは考える。

 勇み足のマーカス貴族がモルヴァニアの領土内にまで探索の手を伸ばしたようだが……



(どう考えてもこれは(まず)いだろう……)



 よもやまさか、他国の土地を勝手に穿(ほじく)り返したりはしないだろうが……しないよな?

 だとしても、場合によってはスパイ行為を()(だん)されても文句の言えない状況だ。ここで不用意に会いに行って、ならず者貴族の一味と思われるのは(すこぶ)(まず)い。事と次第によっては、情報屋として(かなえ)(けい)(ちょう)を問われかねない。……接触するのは諦めよう。

 それに、今この時期にモルヴァニアに出張(でば)って来ているようでは、マーカス国内の候補地捜しに出遅れた貴族だろう。危険を冒してまで会う必要は無い。



 ――()くして、ラスコーがハンスたちと邂逅(かいこう)するという面倒な事態は避け得たのであった。



「あぁ、そうそう。古代帝国とやらの話たぁちと違うが、あの国(マーカス)は別件で面倒な事態を背負(しょ)い込んだみてぇだぜ?」

「ほぉ……? 新たなトラブルですか?」

「あぁ。俺も話に聞いただけなんだがな。何でも『(いざな)いの湖』とやらが、おかしな事になってるんだとよ」

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