第三百四章 特命調査員ラスコー、モルヴァニアへ 12.冒険者の話@カルバラ(その1)【地図あり】
クートでの実りある対談から二週間後、ラスコーの身は未だモルヴァニアの国内にあったが、思いがけぬ幸運によって、いち早くマーカスの状況を知る機会に恵まれていた。カルバラという町で、少し前にマーカスからやって来たという冒険者に出会う事ができたのである。
[モルヴァニア地図]
ラスコーに情報をもたらしてくれたその冒険者は、名をボックとデックといった。
言うまでも無く、サウランド近郊の国境林を「ロスト・ダンジョン」を求めて徘徊し、不審の廉ありとして当局に拘束されていた、テオドラム出身の二人組である。
サウランドで不審人物として拘束されていた筈の二人が、どうして遙々カルバラ下りまでやって来たのかというと……それにはこういう事情があった。
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一応疑いは晴れたという事で当局から解放されたボックとデックであったが、何だか「ロスト・ダンジョン」探索にケチが付いたような気がして気が乗らず、いっそ験直しにイラストリアを出ようかという話になる。
サウランドからイラストリアを出ようとすれば、その行き先はマーカスしか無い。取り敢えずニーダムの町を目指し、ブラブラと日時を費やしつつ、その日暮らしの依頼を熟していたところ、聞こえてきたのがレムダックという貴族の〝快挙〟。大昔のダンジョン跡地から、見事に「古代マーカス帝国」とやらの秘宝(笑)を発見したのだという。
「やっぱり『ロスト・ダンジョン』があったんじゃねーか!」
あの無念千万なサウランドで、糞忌々しい当局のやつらに拘束されたりしなければ、今頃は自分たちが「古代マーカス帝国」の秘宝というのを見つけ出していたのかもしれないものを……
――と、根拠も論理も怪しい理不尽な憤懣に囚われた二人はどうしたか。
「『ロスト・ダンジョン』だったって場所に、行ってみるのか?」
「あぁ? 今更行って何になるってんだ? もう疾っくの疾うに荒らされちまって、めぼしいもんは洗い浚い回収されてらぁ」
「そ、そうだよな……」
マーカス南部で発見されたというロスト・ダンジョン――通称「レムダック遺跡」――には未練もあるが、今更行っても何になるというボックの言にも一理があった。
しかし一理は一理として、このまま放置というのも、何か泣き寝入りするような感じで割り切れない……
「あ? 誰が泣き寝入りするっつったよ?」
「ち、違うってのか?」
どうやらボックにはボックなりの思惑と成算があるようだが、一体それは如何なるものか。
「別に大したこっちゃねぇよ。例のロスト・ダンジョンってなぁ、モルヴァニアとの国境の山にあるんだろ? だったら、その山のモルヴァニア側にも何かあるんじゃねぇかってだけよ」
「お……おぉ……さすがボックだぜ……」
「なぁに、ちっと頭を使やぁ誰だって気付こうってもんよ」
――と、嘯くボックであったが……運命はとことん彼らに辛く当たると決めたらしい。
ケチの付いたマーカスに用は無いとばかりにモルヴァニアへ入り、それとなく情報収集に当たっていたところが、
「あ? 先に行ったやつがいる?」
「おぉ。何だか、妙に立派な馬車に乗ったやつらだったな。マーカスで遺跡探索が流行ってっから、山のこっち側を見に来たとか。酔狂な連中だぜ」
(「ボ、ボックよぉ……」)
「(ち……)あんがとよ。ためになったぜ」
……お気付きの向きもおいでであろうが、これは転移門の適地探しのためにモルヴァニアを訪れたハンスたちの一行であった。ほとんどタッチの差といっていいようなタイミングで、ボックとデックに先行する事ができたようだ。
表向きの説明はともかく、ハンスたちの目的は飽くまで転移門の適地探しにある。なので遺跡の事など、約一名を除いて気にも留めていなかったのだが……出し抜かれた形になったボックはそうは思わなかったようだ。
斯くして、カルバラの町で昼日中から罵り声とメートルを上げていたところを、やって来たラスコーの目に止まった……というのがここまでの経緯である。




