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第三百四章 特命調査員ラスコー、モルヴァニアへ  7.学者の話@クート(その1)【地図あり】

 アラドの町で骨董屋から話を聞いた十日後、ラスコーはクートの町で〝識者〟との面談に()ぎ着けていた。


挿絵(By みてみん) 

[モルヴァニア地図]


「いや……単に『古代帝国』と言われてもね。その『古代』とやらがどの時代を指しているのか判らんでは、(わし)としても答えようが無いんじゃが」

「はぁ……」



 言われてみれば当たり前の話だ。当たり前かつ単純な事実に、当事の自分はなぜ思い至らなかったのか――と、顔から火の出る思いのラスコーであったが、馬鹿を(さら)すのを躊躇(ためら)うようでは、商人や情報屋は務まらない。恥を忍んで教えを請う。ノンヒュームの分布という観点から、何か見えてくるものは無いのかと。


 ラスコーの考えるところに()れば、鍵は〝ノンヒュームの古い様式を取り入れた酒器(ゴブレット)〟という点にある。そういった()(さく)が流通していたという事は、〝ノンヒュームが身近にいた事〟の(しょう)()となるのではないか。

 なら逆に言って、当事のノンヒュームの分布状況から、古代マーカス帝国の(はん)()を推し量れるのではないか……?


 ラスコーにとって切り札とも言えそうな作業仮説であったが、それをあっさりと開陳してしまったのには、ラスコーならではの計算もあった。


 どうせ質疑応答の過程で、こちらの狙いがマーカスにある事は露見する筈。しかし、質問の切り口をノンヒュームにしておけば、依頼人の素性を誤魔化す一助くらいにはなるだろう……

 そういう淡い――もしくは(はかな)い――希望を持っての質問であったが、意外にもこの質問は相手の意表を()いたようだ。



(……まぁ、ノンヒュームが取り沙汰されるようになったのは最近だし、こういう観点で論じようとした者が、これまで出て来なかったという可能性も……あるかな)



 ともあれ、ラスコーの提唱した切り口は「識者」――ダルハッドという名の、引退した教師――のお気に召した様子で、何やらブツブツと(つぶや)き始めた。解説とも(ひと)(ごと)とも言いかねるが、聞いているラスコーが動じる様子を見せない辺り、これがこの「先生」のデフォルトなのかもしれないが。



「ふむ……ドワーフに関しては、彼らは昔からマナステラの地に多かったようだが……これは金属資源の存在という事で説明できようて。一方でエルフと獣人に関しては、彼らが森林を好むという事を忘れる訳にはいかん。(こと)にエルフはその傾向が強いでの。彼らがイラストリアに多いのも、それで説明できるじゃろう。まぁ、マナステラにもそれなりの数がおるようじゃが」



 てっきり史書の記述とか遺跡の分布とか、そっち方面の情報を()(ろう)してくれるのかと思えば……豈図(あにはか)らんや、地形や景観という観点から、ノンヒュームの居住適地を割り出す事にしたようだ。どうもこのダルハッドという先生、こっちの方が専門らしい。



「テオドラムにも……いや、現在テオドラムと呼ばれておる地にも、(かつ)てはかなりのノンヒューム――最近ではこの呼び方も定着してきたようじゃな――がおったと聞くが……あそこはほれ、建国時にイザコザがあったでの」



 テオドラムでは建国間も無い頃、農地拡大のために国内の森林を濫伐(らんばつ)した事があり、それがためにエルフや獣人、果ては魔族とまで事を構えるに至った歴史がある。結果としてその地にいたノンヒュームや精霊・魔物は(こぞ)ってテオドラムを見限っており、現在も敵対的な状況が続いている。

 それについては広く知られた事であるので、ラスコーも黙って(うなず)くに留め、ダルハッド先生の講義(?)に耳を傾けた。



「……マーカスやモルヴァニアは草原の多い土地柄じゃが……これが大昔からそうなのかどうかが判らん。恐らくは気候的な原因によるものじゃろうが……両国とも遊牧民が建国したという事になっておるから、少なくとも建国時には草原が優占する景観であったと考えられる。……定住生活が広まったのは、水路による灌漑(かんがい)(もう)が確立してからじゃというが……それを考えると、エルフや魔族は少なかったかもしれんな」

「――魔族……ですか?」

「おかしくはあるまい? 彼らも定義上は一応『ノンヒューム』の(くく)りに入る筈じゃ」

「はぁ……」

「じゃがまぁ、今問題にしておるのは〝ノンヒュームの作風を取り入れた酒盃(ゴブレット)〟という事じゃし、考えんでもいいじゃろ。獣人と……肝心要のドワーフがおった可能性は捨て切れんというだけで充分じゃろう」

「はぁ……」



 取り敢えず、(かつ)てのマーカス周辺にドワーフがいた可能性は小さくないようだ。とすると、あとはドワーフの人口密度だが……ドワーフそのものの密度を調べるのは難しいとして、鉱山やその跡地の分布なら調べようもあるだろう。

 ラスコーがそう算段を巡らせていたところ、



「そう簡単にはいかんかもしれんぞ?」



 ……などと、不吉な文言(もんごん)をダルハッドが(のたま)ったものだから、ラスコーも思わず顔を上げた。

作品違いながらご報告を。

1巻発売中のコミカライズ版『転生者は世間知らず』ですが、電子単行本2巻の発売日に関しまして確認がとれましたのでご報告いたします。

10月17日(金)から先行配信、11月14日(金)から全書店配信となるようです。

どうかよろしくお願いします。

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