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第三百四章 特命調査員ラスコー、モルヴァニアへ 1.出発までの経緯【地図あり】

 アムルファンの商都セルキアに居を構える商人ラスコーが、得意先であるモルファンの某人物――余計な詮索をしないのが、この世界で長生きするコツである――から急ぎの依頼を受けたのは、八月も終わろうかという頃であった。依頼の内容は、(もっ)()マーカスを席捲(せっけん)しているという「古代マーカス帝国仮説」についてできるだけ速く調べて欲しい、必要経費は依頼人が持つ――というものであった。


 何でモルファンがマーカスに流布(るふ)する与太(よた)(ばなし)に興味を持つのかという気もしたが、依頼の内容がそうなのだから是非も無い。念のために依頼人に調査の内容を確認したが、知りたいのは(くだん)の「仮説」の真贋ではなく、



(その「仮説」がどれだけ広まっており、そしてどこまで受け容れられ、信用されているか――か……)



 そこはラスコーとて素人(しろうと)ではないのだから、(かつ)ての古代帝国――の幻――への憧れが、不穏な「国土回復運動(レコンキスタ)」に通じる可能性には気付いている。無用の騒乱を好まぬ……と言うより現状維持を望むモルファンが、そういった火種に無関心ではいられないというのも理解する。しかし……



(だとしても……何で俺のところなんかに話を持ち込むんだ?)



 モルファンが本気で懸念を抱いているのなら、自前の諜報部隊を差し向ければ済む話の筈。なのにその手段を採らず、一民間人である自分に調査を依頼するというのは……?



(……本気で懸念している訳じゃないが、だとしても放って置くのは体面上も(まず)い――という判断か、でなければ……)



 自分を(おとり)に使う場合……と、好ましからざる方向へ考えが進みそうになったが、



(いや……(おとり)に使うにしては、依頼の事を隠そうという様子が見られなかったな)



 仮に自分を(おとり)にしたとして、マーカスに問い詰められれば白状するだろうぐらいの事は考える筈。それでは(おとり)としての意味は薄い。とすると、やはり自前の部隊を動かしたくない事情があって、自分に代役を望んだ……というのが本筋だろうか。



(……まぁ、心の隅には置いておく必要があるかもな)



 念のために訊き込みの方法も、一工夫した方が良いだろう。

 ただ……その事を別にしても、動くに当たっては考えるべき事があった。


挿絵(By みてみん) 

[アムルファン~マーカス近隣地図]


 ラスコーが拠点を構えているのはアムルファンの商都セルキア。対して依頼の内容は、マーカスにおける訊き込みである。

 マーカスと一口に言ってもその国土は広い。仮に訊き込みの対象地を王都マイカールだとしても、セルキアからは直線距離にしてすら千七百キロほども隔たっている。

 しかも二地点を隔てているのは、両国とも仲の(よろ)しからぬテオドラムである。飛竜で上空を突っ切るなどできる訳も無い。

 勢い、ヴォルダバンとモルヴァニアを経由する()(かい)ルートを採らざるを得ないが、そうすると更に日数がかかる。


 なのに――モルファンからの依頼は〝可及的速やかに〟なのである。


 ほとんど(いじ)めかと思われそうな無理難題であったが、打開策は依頼の内容に示されていた。そう、〝必要経費は依頼人が持つ〟という一節である。



(飛竜をチャーターして一気にモルヴァニア……そう、アラド辺りまで飛んで行けば、日数は許容範囲に収まるか……)



 (もと)より情報屋ラスコーの伝手(つて)は、マーカスだけでなくヴォルダバンからモルヴァニアにまで広がっている。各地で訊き込みをしていけば、面白いネタの一つや二つ引っ掛かってくるだろうが、今はとにかく時間が惜しい。ヴォルダバンは通り抜ける勢いで素っ飛ばし、訊き込みはモルヴァニアから始めるのが良いだろう……


 ()くして、沿岸諸国でも指折りの情報屋ラスコーが、マーカスでの調査に向かう事になったのである。

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