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第三百二章 王女様はご不満 4.イラストリア王国王立講学院・聴講生顛末

 ――話の発端はモルファンからの王女留学であった。


 大国モルファンの王女が〝ノンヒュームの文化や習俗を学ぶために〟イラストリアに留学を決め、そんな王女の心意気に応えるべく、イラストリアが学院におけるノンヒュームの講師を拡充する。

 人族(ヒューマン)の有力な国が二つも〝自分たち(ノンヒューム)の文化〟に興味関心を示しているというのに、自分たちは人族(ヒューマン)の文化に無知・無関心なままでいいのか?


 そんな根源的な問いが獣人の男から出された時、エルギンの「ノンヒューム連絡会議」はこれに答える事ができなかった。

 これはならじと発奮したノンヒュームたちが日夜、熱い甲論乙駁(こうろんおつばく)を繰り広げた結果、自分たちも人族(ヒューマン)の文化に関心を持つべき、少なくともその態度をアピールすべきであるとの結論に至る。

 折しもエルフのベルフォールが学院の講師に(しょう)(へい)され、モルファンの要望に応えるべく、「比較文化史学」の講義を開講するという。なら、その講義に聴講生を送り込むというのが当座の最適解ではないか?


 こういった判断の(もと)、聴講生を送り込むという方針は割と早くに決定され、学院並びにイラストリア王国にも諒解を取ったのだが……今度はその選定に苦慮する事になった。


 大前提として、人族(ヒューマン)に対して敵意や反感を持たない者という事になるが、これは案外と何とかなった。諸悪の根源――の、一つ――とでも言うべきヤルタ教がイラストリアから逃げ去った事が大きいが、他にもエルギンが長年に(わた)ってノンヒュームとの友誼を築き上げてきた事や、バンクス他での出店が暴力的な――註.店員視点――までに好評を博した事などから、人族(ヒューマン)に対する感情は大分改善されている。

 そうすると次なる問題として、近年何かと話題の中心になっているノンヒュームとの()()を結ぶべく、或いは親からそう言い含められて接触を図ろうとする生徒たちを(さば)く対人スキルが必要と考えられ……これが大いなるネックとなった。

 いや、対人スキルというだけなら、例えば上位の冒険者など、それなりに身に着けている者もいなくはないのだが、



「『学院』ってのは要するに、人族(ヒューマン)の子供の(まなび)()だろ? そんなところにいい歳こいたオッサンが潜り込むってのは……」

「あまり見られた図じゃないな、確かに」



 まぁ、エルフなどの長命種であれば、〝見かけは子供、中身は五十歳〟などというケースもあるのだが、その場合も長命種基準で子供である事に違いは無い。大人の狡猾(こうかつ)さは期待できないだろう。


 それでも一人くらいなら何とか推薦できるのではないかとなったのだが……



「……なぁ、そいつ、肝心の受業……比較文化史だったか? それに興味を持てんのか?」



 ――という素朴にして根源的な問いに硬直する事になった。

 〝興味の無い受業を無理して聴くなんざ拷問だぞ?〟――と言われてしまえば、反論の声など上がりようが無い。興味の無い受業を無理して聴いているのが態度でバレたりすれば、これは或る意味で〝比較文化史に興味のある学生〟――例えばアナスタシア王女――に対する侮辱である。……外聞(がいぶん)が非常に(よろ)しくない。



「……やはり、ベルフォールの講義に関心を抱く――抱き得る者を優先するのが筋だろう」

「しかし……あいつの言う『比較文化史学』に興味を持つノンヒュームの子供なんぞ……いるのか?」

「かなり広範な視野を持つ事が要求されるからなぁ……」

「いや、子供ならではの好奇心と考えれば、案外いるんじゃないか?」

「或いは異国趣味とか」

「ベルフォールの専門を考えると、『食いしん坊』というのも候補に入るかもな」

「しかし、対人技能とか社交能力についてはどうする?」

「あぁ? んなもん、二、三人で(つる)んでりゃ、絡んで来ねぇだろうが」

「あぁ……数を(たの)んで()(かく)するのか」

「おぃおぃ、聴講生派遣の眼目は、人族(ヒューマン)との友誼を深めるためだぞ? ()(かく)なんかしてどうする」

「まぁ、しつこい勧誘を(かわ)す時には――って事でいいんじゃないか?」



 そうすると、どうしても複数名を選出する必要があるが、全ての条件を兼ね備えた者を探すよりは楽ではないかとの意見も出され、とにかく心当たりを確かめてみようという事になる。


 その結果、()しくもエルフ・ドワーフ・獣人から一人ずつの聴講生が選び出されたのであった。

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