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第三百二章 王女様はご不満 3.不撓不屈の好奇心~ロイル家次男に向けて~(その2)

 前口上が長くなったが、〝学院有志によるマーカス古代帝国調査団〟の結成・派遣の目を()()無く潰されたアナスタシア王女が、何故またフェルナンドに声をかけたのか。それは――



「マーカスで評判の『古代マーカス帝国』って、マナステラの石窟遺跡との関係が取り沙汰されているそうじゃない。ご実家から何か聞いてないの?」



 読者諸賢は既にご存じのとおり、アナスタシア王女は五月祭終了後のバンクスでロイル卿と歓談の機会を持っており、ロイル家が代々学者のパトロンを(もっ)て任じてきた家柄である事も、その関係で考古学や土器編年学の研究者にも知己(ちき)を持つ事も知っている。

 ――で、あるならば、()の「古代マーカス帝国」仮説でも取り上げられているという「マナステラの石窟遺跡」についても、何かしらの情報を持っているのではないか? 例えば、その遺跡からの出土品とか。



「い、いえ……さすがに僕……自分が入学した後の事になりますし……」



 王立講学院の学生は基本的に寮生活であり、フェルナンドにしても母国(マナステラ)の情勢をリアルタイムで把握する訳にはいかなかった。

 (そもそも)の話として、伝手(つて)を持っているのはロイル家であってフェルナンドではない。その伝手からの情報をフェルナンドが得るためには、どうしても実家を頼るしか無いというのが実情である。

 これで父ロイル卿がイラストリアに屋敷でも構えていれば、そこ経由で情報が入る事も期待できたのであるが、今回は生憎(あいにく)そうならなかった。何となれば、母国(マナステラ)で急を要する重大案件が(しゅっ)(たい)したため、その対応のためにロイル卿が(きゅう)(きょ)召喚されたためである。

 そしてその原因となった重大事案というのが、このところ寄ると触ると噂に(のぼ)る「石窟遺跡」に関わっていた事は、実子フェルナンドにも伏せられた機密情報であったのだ。


 マナステラで何が起きたかというと、「石窟遺跡」からお宝を回収したクラブとペスコの二人組が、()りにも()ってそれをロイル家出入りの商人の(もと)へ持ち込んだのであった。

 既に何度か述べてきたように、ロイル家は代々学者のパトロンを(もっ)て任じてきた家系である。当然、考古学や土器編年学の研究者にも相応のコネクションはある訳だが、そこから生じた伝手(つて)の一端は、骨董品などを扱う商人にも延びている。そして、()のロイル家に出入りを許されているという事実が商人にとってのステータスとなり、顧客からの信頼を増す事になってもいた。

 口の堅い、そして信用できる買い取り先を欲していたクラブとペスコの二人組が、その商人の(もと)へ「お宝」を持ち込んだのも無理のない話であった。


 クラブとペスコの事情はそういったものであったが、そんな爆弾事物を持ち込まれた商人の方も少し困惑した。が、こういう時のためのコネクションだとばかりに、商人は直ちにロイル家(おとくいさま)に連絡を取った。

 報せを受けたロイル家は先代当主の指揮の(もと)、取り敢えず口止めを図ると同時に現物を確保、併せて現当主マンフレッド・ラディヤード・ロイル卿の帰国を要請したのである。

 まぁロイル卿としては、「迷姫(まいひめ)」という爆弾を抱え込んだままイラストリアへ長滞在を決め込む事に確たる不安を感じていたので、これ幸いと帰国に応じたという事情もあった訳だ。


 だが――重ねて言うが、この件はあまりにも重大かつ微妙な事案であるとして、機密保持の名の(もと)に、フェルナンドに対しては伏せられていた。よってフェルナンドは、王女の問いに答える(すべ)を持たなかったという訳なのであった。


 ただ……さすがにマーカスの隣国マナステラの貴族家に籍を置いているだけあって、フェルナンドも噂話の一端くらいは耳にしていた。(もと)よりこの手の話はフェルナンドの好物であるし、それを知っている知人たちが情報を寄越(よこ)してくれるのである。



「ノンヒュームの古い様式を取り入れた酒器(ゴブレット)……?」

「レムダック家の発表に()れば。これは実物を見た数少ない識者も同意見だそうですから、出任せという訳でもなさそうです」



 フェルナンドのもたらした情報は、アナスタシア王女にも初耳であったらしい。王女の祖国モルファンの情報部なら()っくに探り出していそうだが、王女の耳にまでは届いていなかったようだ。と言うか、イラストリアで学ぶには不要な情報であるとして、敢えて伝えなかった可能性もある。お(てん)()王女なら飛び付きそうなネタだという事は、母国の面々にも解っていただろうし。



「そう……ノンヒュームの……」

「……ご存じなかったですか?」

「初耳ね」



 更に言うならば、その「証拠物件」がノンヒュームに――直接にではないにせよ――関係してくるとなると、扱いがデリケートなものとならざるを得ないのが、ここ(しばら)くの現状である。(いわん)や、強い好奇心を抑制できていない王女(こども)に一枚噛ませるなどをや。

 王女にもそれは――不本意ながらも――理解できたので、情報統制(仮)に文句を言う気は無い。無いのだが……



(……特に何をするな(・・・)という指示は受けていないわよね?)



 通知も指示も無かったという事は、そこには禁止も制約も存在しないという事だ。ならば、子供らしい好奇心で少し調べるくらいは許容範囲だろう。何、別に何か企もうというのではない。ただ……恰好(かっこう)の人材がいるというのに、それを活用しないというのも勿体(もったい)無いではないか。


 王女はニヤリ――ニコリではない――と笑いを浮かべると、それまで高見の見物を決め込んでいたクラスメイトの方に向き直った。



「〝ノンヒュームの古い様式を取り入れた酒器(ゴブレット)〟だそうだけど、貴方(あなた)たちは何か知らないかしら?」



 (たの)しげな王女の問いが向けられたのは、三人のノンヒュームの聴講生であった。

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