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第三百二章 王女様はご不満 1.不満足な結果……からの始まり

「どうも失礼しました」



 ――という声と共にイラストリア王国王立講学院の学院長室から出て来たのは、学院に留学中のモルファン王女アナスタシアと、そのお付きたるリッカであった。王女の表情にはありありと()(ぜん)の色が浮かんでいるが、



(あん)(じょう)と言うべきか……やっぱり駄目だったわね」



 その(こわ)()には落胆の響きこそあれ、憤りの気配は含まれていない。何と言うか、〝駄目元で交渉してみたけど、やっぱり駄目だった〟という(てい)であった。

 では、学院長相手に王女は何を談判に及んでいたのかというと、



「イラストリアの学院がマーカスに調査隊を派遣するというのは、やはり無理があるという事でしょう」

「『古代マーカス帝国』なんて言っても、検証するに足る証拠が少な過ぎるものねぇ」



 (もっ)()隣国マーカスを騒がせている、あの(・・)「古代帝国仮説」検証のための調査団を派遣する件についてであった。



 王都イラストリアで開かれた王女歓迎パーティの席で、シャルド古代遺跡から発掘された財宝――の、レプリカ――を目にしてからというもの、王女の中二的興味は一目散に〝古代の秘宝〟に向かっていた。五月祭を見物……見学するために訪れたバンクスの町で、シャルド古代遺跡の発掘に携わったパートリッジ卿らと面談した事――と、その際に貰った著書でクロウ渾身の挿絵を目にした事――は、彼女の興味・関心・好奇心に油を注ぐ結果となっていた。


 ――そんな王女の好奇心に、油どころか航空燃料かロケット燃料を追加する事になったのが、今やマーカス全土を席捲(せっけん)する勢いで広まっている「古代帝国仮説」であった。


 王女もさすがに、留学先のイラストリアを抜け出してマーカスに潜り込むような真似はできないと自覚してはいたものの、胸に燃え盛る好奇心の炎を鎮めるのもまた難しかった。

 小さな頭を捻り倒して引っ張り出した代案というのが、学院を(そそのか)してマーカスへ調査団を派遣させるという謀略であったのだが……



「当事国であるマーカス自体が調査団を派遣しておらず、現在調査を行なっているのは非主流派のマーカス貴族のみ。この状況下でイラストリアなりモルファンなりが正式な調査団など派遣したら、マーカス当局に誤ったメッセージを与えかねない……でしたか」

「言われてみればそのとおりなのよね。もぅグゥの音も出ないくらいに」



 仮にも王立の学園が、そんな外交的綱渡りを行なう事ができるものではない。学院長であるマーベリック卿がやんわりと、しかしはっきりと拒否したのも(むべ)なるかなである。

 ……と言うか、こんな物騒な提案を王女がものしたなどと知られては、母国の家族・親族・家臣たちから雷が落ちる。それこそ強制召喚命令が出されてもおかしくない。

 (もっと)も、それくらいは王女も予期していたとみえて、



「正式なものじゃなくて、学院の生徒が主催するものなら――って思ったんだけど……」

「これまでに学院がそうした調査団を編成した事は無い。今回初めてという事になると、そこに母国(モルファン)の意向が関わっていると勘繰られる(おそれ)がある……あり得ない話ではありませんね」

「そうね。……少なくとも、そういう風にこじ付ける事が可能なのも、王族としてそういう隙を見せるべきではないというのも事実なのよね……」



 母国でなら王女の暴走に苦言を呈する者は幾らでもいただろうが、留学先では忠告者・諫言者の数はぐっと減る筈……と思いきや、学院の教師陣がその任を受け持ってくれるようだ。王女としては有り難いような、或いは有り難迷惑なような、複雑な心境である。



「まぁいいわ。至善・次善の策が尽きたなら、三善の策に移るまでよ」

「……はぃ?」



 不屈の意志を目の奥に宿して不穏な言葉を発した王女に、お付きのリッカは()(まど)ったような声を上げるのであった。


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