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第三百一章 マーカス騒乱節 或いは 魔女の小鍋 10.決断

『……それでどうした?』

『極力気取られないようにしつつ、速やかにその場を撤退しました。バッタリ顔を合わせでもしたら、(ろく)な事にならないと思ったので』

『賢明な判断だ』



 問題含みの「レムダック遺跡」から充分に離れた位置に馬車を停め、ハンクは馬車内の魔導通信機でクロウに事の次第を報告していた。ハンクの判断と行動はクロウも是とするところであったが、



『……マーカスの状況が愈々(いよいよ)解らなくなってきたな。冒険者に化けて貴族のパーティに潜り込んでる修道士?』

『いえ、ヤルタ教の修道士だったのは、自分たちがまだヤルタ教に所属していた頃の話ですから。今は何をしているのかまでは』



 ひょっとして何らかの理由でヤルタ教を離れ、冒険者として再出発した――という可能性だって無きにしも非ずだが、



『ニーダムでヤルタ教の冒険者らしいのが動いている事と考え合わせると、無関係という可能性は低いだろう』

『はぁ……』



 あの冒険者だってマクリーヴ同様にヤルタ教に愛想を尽かしたのかもしれないが、ハンスが店の(おや)()から訊き出したところによると、ヤルタ教の意を受けて骨董品を(ぶっ)(しょく)している可能性が高いという。であれば先刻のマクリーヴも、同じ文脈で動いていると考えるのが妥当である。


 だが……単に骨董品を物色するだけでなく、正体を偽って貴族の調査隊に潜入する?


 ヤルタ教はそうまでして何を狙っているのか?



『共通する要素が「古代マーカス文明」である以上、ヤルタ教の狙いもそれと無関係とは思えんが……』



 ヤルタ教の狙いが判らないのは、その前提となっている「古代マーカス文明」の内容が判らないというのが大きい。(そもそも)この仮説自体、真っ当に取り扱っていいのかどうか疑わしいのだ。

 つまり、ヤルタ教の思惑(おもわく)を探るためには「古代マーカス文明」について調べねばならず、それは取りも直さずマーカスに留まる必要を意味している。



『……()むを得ん。ヤルタ教については後で考える事にして、まずはモルヴァニア国内で精霊門と諜報拠点の候補地を探せ』



 ヤルタ教の動きは気になるが、やはり優先すべきはテオドラムだろう。となれば、テオドラムの動きを探る必要があり、そのためには情報収集の拠点が必要という事になる。

 テオドラム国内での諜報活動は危険が大きく困難となれば、その分隣国での情報収集に力を入れる必要がある。そして、マーカスでの活動が当面難しいとなれば、モルヴァニアでの諜報活動が重視されるという事になる。


 実はテオドラムの国内には、マーカスとの国境地下にある「災厄の岩窟」以外にも、シュレクには「怨毒の廃坑」、ヴォルダバンとの国境付近には「(あわい)の幻郷」と、それなりの数ダンジョンがあるのだが……テオドラムの民衆がこれらのダンジョンを訪れる事は滅多に無い。僅かにシュレク近郊の村から、ダンジョン村を訪ねる者がいるくらいだ。

 ……言い換えるとこれらのダンジョンは、テオドラムに対する諜報拠点としては使えない。(むし)ろ、これらのダンジョンに関心を持つ他国で情報を集める方が、テオドラムの国情を知るには効率的なくらいだ。



『精霊門の候補地探しを先に済ませて構わんが、余人の注意を引かんようにしろ』

『心得ています』



 モルヴァニア国内に入るや否や国境丘陵へ向かったりすれば、何をしているのかと疑われるだろう。悪くすると、密入国のルートを調べているのだなどと誤解されかねない。それでなくとも、マーカスの仮説信奉派の一味と見做(みな)される(おそれ)もある。

 ……どっちにしても好ましい話ではない。



『モルヴァニアが進めてるっていう街道緑化の様子も気になるが……』

『覗いて来ますか?』

『それがなぁ……修道会に来た手紙によると、現時点で開通しているのは、アラド~国境監視砦の間だけらしいんだよな』

『どちらにしても、あまり近付かない方が良さそうですね』

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