第四十六章 第二次クレヴァス防衛強化計画 3.ビーム兵器の可能性
相変わらずクロウは自重しません。
その日、クロウはビーム兵器の改良案について頭を悩ませていた。
(やはりライトボール程度じゃ出力が足りん。太陽エネルギーを用いた太陽炉などではそこそこ高温を得る事ができた筈だから、ライトボールの出力不足という事なんだろうな。まぁ、太陽と較べたら見劣りするのは当然か)
現時点で採用している方式では、強い光を得るために魔力を短時間で一気に放出している。その甲斐あって、強い閃光で視力を奪う事はできたが、反面で持続的な効果は期待できない。強力なエネルギーを常時放つ太陽と較べる方が間違っている。
(後世の検証実験では、アルキメデス方式でも静止目標が相手なら着火するまで照射を続ける事ができたが、移動目標だと狙いを外されて失敗したとか言ってたしな。高出力の光魔法があれば……って言っても、さすがに太陽に匹敵するような威力の光魔法はなぁ……)
クロウの悩みは続く。
(レーザーや荷電粒子線に至っては、魔法でどう再現すればいいのか見当もつかん。残るはマイクロ波なんだが……)
マイクロ波については、地球世界でも暴動鎮圧用の非殺傷兵器としての開発が進んでいた。ミリ波が皮膚の痛点を刺激して耐え難い熱さを感じさせ、暴徒の戦闘意欲を失わせるというものだが……
(しかし、ドラゴンのようなモンスターに通じるのか?)
人間とドラゴンでは皮膚の硬さも厚さも当然違う。マイクロ波が効かない事も充分に考えられる。電子レンジのように体内の水分を沸騰させて攻撃する兵器もあるらしいが、ドラゴンほどの巨体の持ち主にどの程度の効果があるのか……。
(対人戦専用と割り切ってしまうか? しかし、そもそもマイクロ波を生み出す魔法なんてあるのか?)
光魔法が生み出す光は基本的に可視光であり、それより波長が長いものや短いものは生み出せるかどうか疑問である。仮に生み出せたとしても、それは既に光魔法の範疇から外れそうな気がする。
(可視光線よりも波長の長い光を……って、どう教えりゃいいんだよ。……あ、確か赤外線は可視光線よりも長波長だったよな。赤外線――熱――を感じる魔法があるのなら、そっち方向に振るように言ったら解らないかな?)
一度ロムルスたちと話した方がいいか。クロウはそんな事を考えていた。
・・・・・・・・
『……と、いうのがこれまで俺が検討した内容だ』
自分だけで考えていても埒が明かないと早々に見切りを付けたクロウは、これまで自分で考えた内容を眷属たちに開陳し、皆の意見を聞く事にした。
『……ふむ、要は強力な光魔法があればよいのじゃな?』
『まぁ……言ってしまえばそうなるが……爺さま、心当たりはあるのか?』
『残念ながら無いのう』
『目潰しだけならライトボールで充分だし、効果についても問題無いと思えるんだが……ビーム兵器としてはちょっとばかり物足りなくてなぁ』
『確か……光魔法の……攻撃は……範囲攻撃……それも……射程の短い……近距離のものが……大半……だったように……思えます』
『光条での攻撃というのは、確かに、聞いた事がございませんな』
『そもそも、光魔法というのは光の属性効果を用いた攻撃が大半ですから……クロウ様が仰るような光エネルギーでの攻撃というのは、聞いた事が無いように思います』
『強い光ですかぁ……』
『お日様の光を持ってこれたらいいんでしょうけどね』
そうだな、ウィン……太陽光を……持ってこれたら?
『……ちょっと待てよ……ロムルス、魔法で光を屈折させることはできるんじゃないか?』
『はい……確かにできますが?』
『太陽光を屈折させて、凹面鏡の真正面から射すようにする事は?』
『!』
『……できるのか?』
『……やってみます!』
結論から言うと、光路を屈折させた太陽光を凹面鏡に誘導してビームにする事は一応できた。しかし、今度は別の問題が浮上してきた。
『……クロウ様、やはり光の屈折と凹面鏡の操作を同時にというのは、かなり面倒で負担も大きいです』
『相手が静止していてくれるとは限らんしなぁ……。仕方がない、光の屈折は別途魔道具か何かを考えよう。当面はライトボールによる目潰しで満足しておこう。ビーム兵器としての開発の指針が得られただけでも充分だ』
光を屈折させて凹面鏡に誘導する魔道具を作るか、それともいっそ光ファイバーケーブルを持ち込むか作るかしてもいいか……。
本章はこれで終わりです。もう一話は挿話になります。




