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第三百一章 マーカス騒乱節 或いは 魔女の小鍋 7.マナステラからの来訪者

 ハンスたちが王都マイカールを目指(めざ)し、ハーコート卿が所用でマイカール近くの町を訪れている頃、(さなが)ら灯火に誘われる虫の如く、マイカールに向かっている者たちが他にもいた。レンドとスキットルのコンビである。


 彼らがマイカールに向かっているのは、無論マナステラ上層部の意を受けての事なのであるが、そこまでの事情は少し複雑であった。


 隣国マーカスで「古代マーカス帝国」などという()にも付かない与太(よた)(ばなし)――註.マナステラ上層部視点――が流行(はや)っているとの報を受けても、マナステラ上層部は特に動きを示さなかった。古代の遺跡? そんなものは自国の分だけで間に合っている。何を好んで隣国の面倒にまで、首を突っ込まねばならんのか。

 ……という具合に、マナステラ側も当初は割と冷静――と言うか冷淡――な態度に終始していたのだが、生憎(あいにく)と〝()にも付かない与太(よた)(ばなし)〟に熱狂するマーカスの一部貴族の方は、そんな事情を忖度(そんたく)してくれる訳も無い。


 〝貴国で発見されたという石窟遺跡は、「古代マーカス帝国」と何か関わりがあるのではないか?〟……との質問が相次ぐ事になったのである。


 最初の方こそ冷静かつ丁寧な応対をしていたマナステラであるが、そんな問い合わせが重なるにつれ、次第に対応もぞんざいなものに堕しそうになる。〝お前ら……一蓮(いちれん)(たく)(しょう)の同類項なら、せめて質問を(まと)めておくコンセンサスぐらい付けとけや〟……と言いたくなるのを懸命に(こら)えて対応していたのだが……



〝ドワーフの作風を取り入れた習作……だと?〟

〝うむ。()のレムダック卿が発見した古代の遺物とやらが、な〟

〝現物はレムダック家が厳重に秘匿しており、気安く見られるようなものではないらしいが……実見した者がいないではないし、それなりに信頼できる筋の鑑定書もあるそうだ〟

〝ふむ……それは(いささ)か〟

〝あぁ、気になる話だろう?〟



 国家事業として「ノンヒューム美術品データベース」の作成に取り組んでいるマナステラとしては、さすがに捨て置けぬ話である。


 ……といった次第で、マナステラ王国首脳部が絶大な信を置く(笑)レンドとスキットルのコンビが、再登用される運びとなったのであった。



・・・・・・・・



「……で、それが発見された現場でも、近隣で発掘調査に(いそし)しんでいる調査隊でもなく、王都を目指(めざ)す理由は何なんです? 直接レムダック家に当たってみるんですか?」



 (もっと)も思えるスキットルの疑問に、レンドは首を左右に振って答える。



「僕らがいきなりレムダック家に当たったところで、門前払いを喰わされるのがオチさ。仮に入れてもらえたところで、彼ら一派の取って置きとも言える〝古代遺物〟とやらを、そう簡単に見せてもらえる訳が無い。要は行くだけ無駄なのさ」



 レムダック家以外の「仮説信奉派」貴族にしても、さすがに当主は王都に在地しているだろうが、調査の実務を取り仕切る者は、(へき)()で調査に邁進(まいしん)している筈。行ったところで空振る可能性は低くない。

 いやそれ以前に、どの地に住まうどの貴族が「仮説信奉派」なのかすら判っていないのだ。王都を訪ね歩くなど時間の無駄でしかない。


 だったら発掘作業の現場に……と言いたいところだが、レムダック家以外の調査隊は、どこで調査を行なっているのか定かでない。そして大本命のレムダック調査隊は、何処の馬の骨とも知れぬ「(自称)マナステラの使いっ走り」などには会ってもくれないだろう。



「だけどその一方で、レムダック一派は自分たちの主張の正当性を示すためにも、(くだん)の〝古代遺物〟をはじめとする出土品の事は、対立派閥の貴族たちにも報告している筈だろ? 後で馬脚を現すと恥を掻くだけだから、報告書でそこまでの嘘八百を並べているとも思えない。だったら、レムダック一派と対立する派閥……と言うか、()の仮説を受け容れていない一派の貴族に話を訊くのが早道だろ?」



 〝こういうのは政敵に訊くのが一番だよ〟――と、事も無げに(のたま)うレンドは、商人の三男とは言え、それなりに()(れん)()(くだ)を心得ているようであった。スキットルも感心する事(しき)りである。



「まぁ、それでも大物貴族は会ってくれないだろうけどね、中堅以下なら会ってくれる貴族もいるんじゃないかな。一応はマナステラから派遣されたという身分なんだし」



 そして……



「何だったらさ、〝今回の件に絡んでの貴国(マーカス)からの執拗な問い合わせに、マナステラ本国は辟易(へきえき)している〟事を匂わせてもいいんだし」



 カラカラと笑うレンドを見て、内心で(いささ)か引きつつも、頼もしく思うスキットルなのであった。

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