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第三百一章 マーカス騒乱節 或いは 魔女の小鍋 5.ハーコート卿、心配する

 俗に〝目の寄るところに玉の寄る〟とか、〝飛んで火に入る夏の虫〟などと云うが、「古代マーカス帝国(仮)」などというホットなネタがホットに沸き返っているところには、それに惹かれてやって来る者がいるものだ。

 ヤルタ教の冒険者はその一例であるが……敢えて〝一例〟と云うからには、〝別の例〟がある筈――というのが文法の解釈から導き出される答である。


 その〝別の例〟の、更にその〝一例〟が、マーカスのとある(・・・)場所を訪れていた。その〝一例〟が誰なのかを知ったらクロウも平静ではいられなかっただろうが、幸いにしてこの訪問がクロウの心を掻き乱すような事はなかった……今のところは。



・・・・・・・・・・



「念を押させてもらうが……今回の件では動いていないんだね?」

「動くも動かねぇも、(そもそも)俺たちの出る幕なんざ無ぇよ」

「……と、言うと?」



 マーカスの王都マイカールの郊外にある小さな町。そこにある一軒の家を訪れているのはパトリック・ハーコート卿。イラストリア王国の某男爵家の三男坊で、骨董趣味の度が過ぎて、自分でも発掘に手を出すようになったという道楽者。友人であるカーライル宰相に考古学の知識と為人(ひととなり)を見込まれて、シャルドの「封印遺跡」調査に引っ張り込まれた被害者でもある。そしてクロウともパートリッジ卿を介して面識がある。


 そんな人物だけに、骨董特需で掘り出し物が現れる事を期待してマーカスにやって来た――というのはありそうな話に思えるが……今回は少し事情が違っていた。

 マーカスに入ったハーコート卿は、真っ先に骨董店・古物店を見て廻る……かと思いきや、案に相違して真っ先に向かったのは前述の町。見たところ何の変哲も無い一軒の家を訪れて、そこで初老の男と話し込んでいる訳だが……この男、今でこそ一線を退いているが、実はそれなりに名の知られた贋作者であった。

 ふとした事でこの男と知り合ったハーコート卿は、入手した物の目利(めき)きを頼むために、この男と友誼を繋いでいたのだが……旧友パートリッジ卿にこの男の事を知られてから、シャルド出土品のレプリカ作製を依頼する羽目になっていた。幸いに男はこの依頼に興味を示し、近々イラストリアに居を移すところまで合意が進んでいたのである。


 ところが――その出発も間際となったこの時期に、マーカスに降って湧いたのが前述の「古代マーカス帝国」騒ぎ。それに未知の古代遺物、しかもノンヒュームの作風を取り入れた習作っぽいものが絡んでいると聞き、心配になってマーカスを訪れたというのが事の次第なのであった。


 

「何を気にしてんのかは解るが、この()に及んでケチな仕事に手を出す気は無ぇから心配すんな。……つぅか(そもそも)、この件じゃ贋作はほとんど出廻ってねぇんだからよ」

「出廻って……いない?」



 ――ハーコート卿にしてみれば、(いささ)か意外とも思える話であった。


 降って湧いたような古代文明騒ぎとそれに伴う骨董(こっとう)特需。後ろ暗いところのある連中が、(こぞ)って(した)()めずりをしそうな話だと思っていたのだが……



「いや、(そもそも)何の贋作を作ればいいのか解らんからな」



 ……あっけらかんと男に言われて、ハーコート卿も気が付いた。

 何しろ今回の話のネタは「未知の古代帝国」。〝未知〟であるが故に当然、そこで流通していたような品々がどういうものなのかも判っていない。つまり、何を作ればいいのかも判らない。

 どうせ〝未知〟なのだからとばかりに銘々勝手に作った日には、それこそ〝魔女の大釜〟宜しく雑多な贋作が横行する事となり、早晩(そうばん)疑いを持たれるだろう。自分で自分の首を絞めるようなものだ。


 ……そう考えた贋作師たちが、手を出すのに及び腰となったのも(うなず)ける。



「つか、そもそも美術品とかじゃねぇからな 考古学的遺物だの出土品だのと言われても、作る肝ってやつが解らねぇんじゃ――よ」



 それもあって、贋作師たちは手を出さないらしい。

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