第三百一章 マーカス騒乱節 或いは 魔女の小鍋 4.困惑する黒幕たち(その2)
依然不明な点は多いが、とりあえず前回の安酒も今回の骨董も、教団としての動きだとして検討してみようではないか。
『まぁ、その方が話は単純になるわな』
『単純な骨組みを複雑に膨らませる……っていうのが基本ですよね、マスター』
『身につまされる話だな……』
『そぅするとぉ、お酒と骨董の共通点ってなるとぉ』
『……贅沢品?』
『いや、前回の酒は安物だったよね』
『今回の仕入れはどうなの? お高いやつ?』
『ハンスもヤルタ教の仕入れ状況までは掴めなかったみたいだからなぁ……』
『抑じゃ、めぼしいものが見つからず、手ぶらで去ったという話ではなかったか?』
『一般的な売れ筋は?』
『購入者は貴族層って話だし、骨董特需って感じだし、高価なもの?』
『いや、そこはピンキリらしいな』
『と言うか、店の方もこれ幸いとぼったくっていそうだし、価値と価格は釣り合ってないんじゃないの?』
『価値の……意味にも……よるでしょう……学術的な……価値とか……』
『そういうのって、正しく評価するのが難しいと思う』
『何だかぁ、話がぁ、ずれてきてぃなぃ?』
脱線しかかった議論がライの指摘で戻されて、改めて問題点の検討を進める。
『愚考いたしますに、前回のヴォルダバンと今回のマーカスでは諸々の事情も違いますし、完全に同じ目的とは見做せぬのではございませんか? 無論、通底する目的はありましょうが』
『確かに……』
『色々違うところもありますし、別々の任務だと考えた方が自然ですね』
スレイの指摘にクリスマスシティーが同意を表した事で、とりあえず今回の骨董の件だけを切り離して考えるという方針が決まる。
『そうすると……やつらが探している「骨董」がどういう価値、ないしは意味を持つかという事になるな』
『……どういう事なの? クロウ』
『単純に考えればその価値とは、①売買の対象としての金銭的価値、②「骨董」を探し求めている者への手土産、というのが考えられる。①については既に否決の方針が決まっているから、問題とすべきは②の価値だろう。つまり……』
『……ヤルタ教はマーカスの貴族との繋がりを求めている……』
『そういう事になりそうじゃのぉ』
さてそうなると、ヤルタ教の狙いが那辺にあるのかが気になってくるが、
『それより先に決めなきゃならん事がある』
『先に……ですか?』
『あぁ。ヤルタ教がおかしな動きを見せている以上、せめて手先だという冒険者には、監視を付けておきたいところだ。しかし……』
『あ……』
『監視対象はヤルタ教の冒険者なんだから……』
『カイトさんたちは身バレの危険がある訳か……』
『エルダーアンデッド化した事で面変わりしているようだが、それだけを当てにする訳にはいかん。監視員の交替が望ましいだろう。しかしそうすると、今度はカイトたちを何処へ遣るかという問題が出て来る』
『……あぁ、一応周りには〝病気療養の旅〟と言って出て来ているから……』
『直ぐに帰宅はできないよね』
――成る程。マンパワー不足と人員の配置に悩むクロウたちにとって、これは地味に面倒な話だ。
『それに、ハンスさんも歴史道楽っていう触れ込みだから、今のマーカスからそう簡単に撤退するのは……』
『不自然に思われそうだよね』
『できる事ならマーカスに残らせたい。けどそうすると、ヤルタ教の冒険者と出会す危険性がある』
『面倒な話になってきたわね……』
二進も三進もいかない状況に溜息を吐きたいクロウであるが、怨み言や泣き言で話が進むほどこの世は甘くない。
『とりあえず、顔見知りのいるニーダムからは撤退させよう。危険を冒す事は無い』
『帰国させるんですか? 主様』
『いや、それはそれで疑念を持たれそうだし、第一勿体無いだろう。次善の策として、王都マイカールへ向かわせようかと思う』
『ははぁ、王都にですか』
『幸か不幸か、面倒な貴族連中は挙って僻地に向かっているそうだから、王都は却って手薄かもしれん まぁ、さすがに当主まで僻地に赴いているとは思わんが』
『そうしますと、今後マーカスの監視はどのように?』
『オッドさんに頼むんですか? マスター』
テオドラム相手にコン・ゲームを仕掛けたオッドは、土地取引を終えて一旦舞台から下がっているが、
『……いや、オッドのチームには他にやってもらう事がある。第二幕はまだ先の事になるが、今人員を引き抜くのは拙い。……暫くは静観するしか無いだろうな』




