第三百一章 マーカス騒乱節 或いは 魔女の小鍋 3.困惑する黒幕たち(その1)
『酒の次は骨董か? ヤルタ教のやつらも何を考えてるんだか……』
ハンスからの報告を受けて、呆れたような感想を漏らしているのはクロウである。
まぁクロウのコメントも故無きものでも、それほど的を外れたものでもない。ヤルタ教とは今年の四月に「シェイカー」として一戦交えたのだが、その時の戦利品が大量の安酒とあって、クロウたちもヤルタ教の意図に首を捻る事になったのである。
その時はとりあえずそれなりの説明を付け、酒の処分も「義賊(笑)」に委ねて事無きを得たのだが……今回新たにマーカスの地で、今度は骨董を買い漁っているなどという報告を受けた日には、改めてヤルタ教の思惑が気になるというもの。上層部が錯乱しているというのなら、それはそれで説得力があるが……
『そうでない可能性も考えなくてはいかんだろう、一応』
危機管理の視点からは妥当な判断であるが、しかし現実の問題として――
『どういう……可能性が……考えられる……でしょうか?』
『それだな、問題は』
現時点で確かな事実として判っているのは、ヤルタ教が安酒と骨董の仕入れに走ったという事だけ。この解釈として考えられるのは、
『はぃはーい。メイクマネーってやつじゃないんですか?』
『金儲けか……』
「オッカムの剃刀」に従って、まずは単純に考えてみようという事でキーンが提案したのは、金策のための仕入れではないかという解釈であった。
『妥当と言えば妥当だけど……』
『宗教法人のぉ、金策ってぇ、もぅ少し違ぅんじゃなぃのぉ?』
『確かにみみっちい気はする……』
『いや……天辺じゃなくって下っ端がやってんだとしたらどうだ?』
『何か涙ぐましいわね……』
『下っ端の苦労ってやつ?』
『ですが……ヴォルダバンに続いてマーカスでもとなると、どれだけ困窮する者がおるのですかな?』
『上層部の統制が効いていないのでしょうか?』
『職員の給料も払われていないとか?』
『それって、会社としては末期のような……』
宗教団体崩壊のプロセスを彷彿とさせる話ではあるが、
『じゃが、そこまで手遅れの状態にあるのなら、他にも兆候が現れておらんのか?』
爺さまの指摘に考え込む眷属たち。
殊更ヤルタ教の監視を強めている訳ではないが、そこまで内部崩壊が進んでいるなら、何かしら他にも動きがあって然るべきだろう。ヤルタ教を目の敵にしているノンヒュームたちが、そんな兆候を見逃すとも思えない。
『……金欠に耐えかねて――っていうんじゃなくて、単純に欲得尽くとか?』
『それにしたってよ、もぅちっと他の金蔓がありそうじゃねぇか?』
『立場を悪用して脅し取る……っていうのがテンプレだよね』
『悪事に手を染めるのは聖職者として拙い――とか?』
『お酒の転売は……悪事ではないか』
『いや待って、前回のお酒の件では態々商隊まで仕立ててるんだし、個人的な小遣い稼ぎって感じには思えないんだけど?』
『あー……確かに』
『だったら今回の骨董も、教団としての動きだって事?』
『教団が肝煎りで派遣したにしては、目利きがまるでダメだったって聞いたけど?』




