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第三百一章 マーカス騒乱節 或いは 魔女の小鍋 1.ヒヤリハット【地図あり】

(「ちょっと待ってくれ」)



 小さな声でそう言ってハンクがハンスを引き留めたのは、マーカスの地方都市ニーダムの路上。このところ時ならぬ道路建設で賑わっている町である。



(「……どうかしましたか?」)



 何でもない(ふう)(よそお)って訊ねたハンスに返って来た答えは、彼の思いもよらないものであった。



(「さっき店から出て来た男……ヤルタ教の冒険者だ。間違い無い」)



・・・・・・・・



 なじかは知らねどこのところ、精霊門の開設候補地にマーカスの貴族連が出没しているとの報告を受け、事情究明のためにハンスたちがマーカスに行くよう指示されたのは先月の半ば。

 少し訳ありの御曹(おんぞう)()という触れ込みのカイトが再び(心の)病気療養の旅に出るという事にして、その旨をそれとなく周知させるよう工作を終えてヴィンシュタットを発ったのが今月の初頭。

 馬車に乗って屋敷を出発し、レンヴィルからオドラントを経てニルに辿(たど)り着いたのが今月の半ば。単に異動するだけなら、サウランドから直接ニルに行った方が早いのだが、御曹(おんぞう)()(笑)であるカイトの足取りを残しておく必要があるため、敢えてこうした訳である。

 ニルから国境を越えてイラストリアへ入ったところで、人目を避けて馬車の外見を変え、カイトも訳ありの御曹司から冒険者へ、仲間たちも御曹司の護衛から別の冒険者にその姿を(やつ)し、サウランドを経てマーカスに入ったのが、三日ほど前の事であった。


挿絵(By みてみん) 

[テオドラム~マーカス近隣地図]


 マーカスへ入った早々、いやその前のサウランドの町ですら、マーカスにおける遺跡探索熱については噂に(のぼ)っており、貴族連中が僻地探索に精を出していた理由については判明した。

 が――我がもの顔に彷徨(うろつ)き廻る貴族たちのせいで、マーカスにおける精霊門の開設に支障が出ている現状は変わらない。

 道楽貴族どもが近寄らない場所を見つけるか、それともいっそ町中で空き家のようなものを物色するか、はたまた(しばら)くマーカスに手を伸ばすのを控えるか……その判断を下すためにも、もう少しマーカスの情勢を探っておかねばならない。それに第一、〝歴史道楽が過ぎて親から勘当を喰らったテオドラムの元貴族〟という触れ込みでここにやって来ているハンスたちとしては、こんな美味しい状況を前にして手を引くという選択肢は無い。



〝やっぱりよ、最低でも古物屋の何軒かを巡るくらいは、やっといた方が良いんじゃないか?〟

〝ですよねぇ〟



 ――という相談の結果、手始めにニーダムで店を巡ってみようという事になったのだが、その()(ばな)に面倒な相手を見かけた……というのが冒頭の情景なのであった。



(「以前とは顔が変わってるから、気付かれる心配は少ないと思うが……」)

(「分の悪い博奕(ばくち)に敢えて手を出す必要は無いでしょう」)



 慎重派の二人はそう判断し、()気無(げな)い様子で立ち止まって、ヤルタ教の冒険者をやり過ごす。幸いにして(くだん)の冒険者は、ハンク――当時の名前はダンカン――に気付く事無く去って行った。



(「まぁ……すっかり(おも)()わりしてるからな」)



 ホッとしたような残念なような、内心でそんな複雑な思いを抱くハンクなのであった。


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