第四十六章 第二次クレヴァス防衛強化計画 2.電撃鞭とビーム兵器
またしてもクロウが自重を捨て始めます。
クレヴァスのダンジョンコアであるレブから、電撃鞭の実用化の目処が立ったという連絡を受けた俺たちは、早速クレヴァスにやって来た。もちろん作動試験に立ち会うためだ。
「ふむ。鞭の速度は問題ないようだ。電撃の威力は?」
「そちらは魔石次第と言うところです。ただ、現在使用している小さめの魔石でも、グリフォンを硬直させる程度の威力はあります」
「連続使用した場合の威力の低下は?」
「十回の連続使用で十パーセントの低下、というところでしょうか」
それなら実用上問題はないか……。
「鞭の射程はどうなんだ?」
「少し悩ましいところです。現状では二十メートルで運用しています」
「やはり短いか……鞭の先端の貫通力は?」
この鞭の先端は銛のように尖らせてある。
「今のままだと、ドラゴンの皮膚を突き刺すのは厳しいですね」
むう……。外部兵装としては使いどころが微妙になるか……いや。
「射程が短い分は数を揃えて補おう。奇襲兵器としては充分だろう。それと……こいつは内部の通路にも設置したいな。適当な場所を選んで置いてみてくれ」
「「クロウ様、私たちの迷宮にも装備したいのですが」」
先輩格のダンジョンコア二体が声を揃えて要望してきた。
「ロムルスにレムスか、レブが構わないと言うんなら、俺としては異存はないぞ。ただ、奇襲要素が重要な兵器だから、無闇に知らしめる事は慎んでくれ」
「「もちろんです」」
現状では中射程でそれなりの威力を持つ兵器が不足しているな。やはりビーム兵器の開発に取りかかるか……。
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地球世界で実用化された、あるいは構想されているビーム兵器と言えばレーザーだが、それ以外にも荷電粒子線や非致死性兵器としてのマイクロ波――皮膚の痛点を刺激して耐え難い熱さや苦痛を与える――などが挙げられる。しかしいずれも高度な技術を要するもので、この世界の魔法をもってしても再現できるかどうかは微妙――どちらかと言えば無理に近い――というのが実情であった。
従って、クロウが考えているのはこれらSFの王道としてのビーム兵器ではなく、凹面鏡――あるいは平面鏡をその形状に並べたもの――によって光を集束し、相手にぶつけるという程度のものであった。かつてギリシアのアルキメデスは、同じ原理によって敵国の軍船を焼き払ったと伝えられているが、これはどうも眉唾らしい。しかし目眩まし――上手くやれば一時的に視力を奪う――ぐらいは可能ではないかというのがクロウの目論見であった。
『光源としては太陽でもいいんだが、それだと天候や時刻に左右される。光魔法で凹面鏡の前に光球を出現させてやれば、その光を一方向に集束して当てる事ができるんじゃないかと思えるんだが』
『……断言はできませんが、可能な気がします』
『で、最初の問題はだな、俺は光魔法を使えないんだが、ダンジョンコア諸君は使えるか?』
どのみち現実の戦闘では、実際に運用するダンジョンコアの魔法に頼るしかないのだ。クロウはそう割り切って、ダンジョンコアたちに最初の問題を丸投げした。
『……ライトボール程度であれば、自分と弟は使えます。レブは……』
『……一応使えます。ショボい光ですが……』
『なら、少なくとも実験をする上では問題ないな。上手くいきそうなら、各自スキルアップに励んでもらおう』
直接魔法を撃たない立場の気安さで、クロウはあっさりと話を決めた。ダンジョンコアの光魔法の習熟度と、実験場に使える空間の確保という点から、二十センチ砲の時と同様に、レムスの「流砂の迷宮」で実験を行なう事になった。
『う~ん、思ったより集束しないな。出力も、ライトボールじゃこんなもんか』
『しかし、目眩ましとしては充分以上でしょう。かなりの距離から相手の視力を、しかもしばらくの間奪う事ができるのですから、戦術的な価値はこれは大きいです』
『確かにそうだな……俺たちの世界で言うビーム兵器とは少し違うが……どちらかと言えばスタングレネードに近い運用になるな』
『クロウ様、それは?』
『強力な閃光と音で、一時的に敵の視覚と聴覚を奪って戦闘能力を低下させる一種の爆弾――花火のようなもの――だな。スタングレネードは基本的に投げて使う仕様のため、遠距離からの攻撃は難しいんだが、こっちはビームとして使うから距離を稼げるのは大きいな』
『当面は目眩ましとして用いる事にして、出力の増大は別途考えるようにしてはいかがでしょう』
『そうだな、それでいこう』
斯くして、第二次クレヴァス防衛強化計画も達成される見込みとなった。
明日は本章の残りと挿話です。




