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第三百章 新任助祭の奮闘~マーカス篇~ 7.テオドラム(その1)

「マーカスが少々おかしな事になっているようだ」



 当惑したような表情を浮かべるトルランド外務卿が切り出した一言に、居並ぶ一同もまた困惑の表情を返す。〝おかしな事〟というのはどういう事だ?


 マーカスはテオドラムの隣国ではあるが、友好的な関係にあるとは言い難い。と言うか、ぶっちゃけ仮想敵国である。

 ただ……(もっ)()はあれこれ色々な事情があって、双方ともに開戦を望んでいない。……言い換えれば、今の時点でマーカスの国情がおかしくなるのは、テオドラムにとっても好ましくない。何かが暴発して即開戦……などという事になったらどうしてくれる。



「いや……そういう意味での〝おかしさ〟ではないのだが……まぁ聴いてくれ」



 そう言ってトルランド外務卿が話したのは、マーカスで起きている遺跡探索熱と、そこから派生した古代帝国仮説の事であったから、一同ウ~ムと(うな)るしか無い。



「確かに……これは〝おかしな事態〟としか言えんな」

「マーカスは……その……国を挙げてその怪説に狂奔しているのか」



 国を挙げての熱狂が得てして(ろく)でもない事を引き起こすのは、古今東西、枚挙(まいきょ)(いとま)が無い。それを()(しつ)しているだけに、国務卿たちも(いささ)か及び腰である。

 遺跡探索が開戦の理由になるなどと、真っ当な考えを持つ者なら笑殺しそうだが……他ならぬテオドラムに、(かつ)てそれに近い事をやらかした大愚物がいる。言うまでも無くノーデン男爵の事であり、それを知っているだけに楽観する気にはなれないのであった。



「いや、幸いにしてと言うべきか、本気でのめり込んでいるのは一部のようだ。レムダックとかいう貴族が中心らしいが……大半は懐疑的か、或いは面白がっているだけのようだ」

「だったら……」



 ()したる問題は無いではないか――と言いかける声を、外務卿は手を振って()なす。



「問題は探索熱ではなくて仮説の方なのだ。太古の昔、マーカスの辺りに大帝国があったという――な」



 そこまで言われれば、外務卿が何を懸念しているのかは察しが付く。ついでに、それが(ろく)でもない懸念だという事も。



「『岩窟』の黄金か……」

「そこにあるという砂金鉱床の事も含めて――な」



 理の当然たる事この上無しという指摘を受けて、一同の表情がウンザリとしたものに変わる。全く……どうしてこの世は、こう裏目々々に話が進むのか。


 暇していた軍人と学者の罪の無い(筈の)茶飲み話が切っ掛けとなって、「災厄の岩窟」砂金鉱床説などという厄介なネタが爆誕し、それが瞬く間に国内に広がり、(あまつさ)え隣国マーカスにまで山っ気連中が押しかける騒ぎになったのはつい先日の事。

 ただでさえ微妙な隣国(マーカス)との関係がこれ以上(こじ)れては(たま)らないと、山っ気連中を――マーカスの向こう隣の――マナステラへ誘導するよう画策し、それが一応の功を奏したのを見て安堵していたのだが……



「今度は砂金に代わって古代文明か? マーカス(あのくに)も中々(にぎ)やかだな」

(のん)()な事を言ってる場合か」



 先の砂金鉱床説に関して言えば、水脈の上流下流という関係に(かんが)み、テオドラムよりマーカス、更にはマナステラの順に容疑(笑)が濃くなる傾向にあった。テオドラムは()わばモブ的立ち位置を享受できていたのだが、



「一応、古代帝国とやらの中心地はマーカスという事になっているが……」

「それは飽くまでマーカス国内での話だからな」

「いや、仮に中心地が現マーカス国内であったとしても、その古代帝国とやらの(はん)()はイラストリアやマナステラ、更には我が国の一部にまで及んでいたというそうではないか」

所詮(しょせん)益体(やくたい)も無い与太(よた)(ばなし)だろう」

与太(よた)だろうが何だろうが、その古代帝国とやらと我が国が結び付けられるのが問題なのだろうが。『災厄の岩窟』の事を忘れた訳ではあるまい」

「うむ……」

「確かに……」

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