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第三百章 新任助祭の奮闘~マーカス篇~ 5.お告げの地へ(その1)

 故国を飾る栄光の歴史――正確には古代史の異端な一仮説――に浮かれる者と、それを内心冷ややかに見つめながらも浮かれ騒ぎに便乗する者。呉越同舟の一行は、しかし表面的にはそんな気配を露ほども見せぬまま、お告げとやらの示した地へと辿(たど)り着いた。

 そこはモルヴァニアとの国境を成している丘陵地。(けん)()という程ではないが起伏のある、そして(まば)らな樹林に覆われた地域である。騎馬での移動を旨とするマーカスやモルヴァニアの民には往き来の面倒な地形で、なればこそ国境とされた訳だ。

 ……成る程。国境という面倒な場所と起伏のある樹林地。国民があまり近寄らないという条件を満たしてはいる。



(けど……だからと言って、立ち入った者が皆無という訳じゃなかっただろうに)



 第三者的には愈々(いよいよ)怪しさが(いや)()すばかりなのだが、当事者(マーカスきぞく)の目には違って見えるらしい。〝これぞ父祖の栄光の地!〟……とか何とか(わめ)きながら山径(やまみち)を登っている。



(いや……お告げに拠ると今のマーカス王国は、古代帝国滅亡後に、新たに建国されたんじゃなかったのか?)



 〝父祖〟どころか、古代帝国にとっては空き巣狙いか侵入者、下手をすると帝国滅亡に加担した者の(まつ)(えい)という可能性すらあるのではないか?


 マクリーヴをはじめとして、冒険者の多くは微妙な表情を浮かべているが、それでも依頼主が元気を出してくれるのは大助かりなので、慎ましく沈黙を守っている。


 細い山径(やまみち)を歩んでいた筈が、何時(いつ)しかそれすら外れた斜面、それも段々と(けん)()の度合いを増しつつある状況に、浮かれ騒いでいた依頼主たちの声も絶え絶えになる頃、



「見えました、あそこです」



 先導していた霊感師(自称)が()し示したのは、



「……崖?」

「いや……(ひび)割れのようなものが見えるが……待て?」

「あれは……洞窟の入口が埋まっているのか?」



 カタコンベとの類似性からクロウの仕込みを疑われそうだが、こっちは正真正銘の天然物である。崖崩れか何かで埋まっていた洞窟の入口が、小規模な崩壊で姿を現したのか、それとも最初から入口の七割ほどしか埋まっていなかったのかは判らないが。



「……内部は案外と広いんだな」

「あぁ。壁も(しっか)りしてるし……一~二家族なら充分に暮らせそうだな」

酒盃(ゴブレット)を拾ったのはこの奥ですが、他にも色々と埋まっているようです」



 護衛役の冒険者たちが内部の様子を調べていくその傍らで、



「おぉ……ここが……」

「我らが父祖が戦火を逃れて隠れ住んでいた場所なのか……」



 感慨深げに壁をペタペタと触ったり、隅っこを穿(ほじく)り始めたり……終いには護衛も付けずに勝手にそこらを彷徨(うろつ)き廻る探索チーム。

 いや、あんたらの先祖じゃないだろう……という突っ込みを呑み込んで、安全確認が未だ済んでいない事を指摘して、静かにするよう――握った拳を見せ付けながら――説得する護衛チーム。その甲斐あってか、とりあえず勝手に彷徨(うろつ)き廻る事だけは控えてくれたが、それも長くは()ちそうにない。


 事ここに至っては()むを得ぬと、最低限の安全確認を済ませた後、探索チームは発掘調査に、護衛チームはその傍で周辺の警戒に当たる事にする。マクリーヴは洞窟の奥を、支洞も含めて捜索するチームに振り分けられた。


 洞窟内の概査と安全確認をざっと済ませて戻ってみたら、一行を案内してきた霊感師の姿が見えない。どうした事かと同僚に訊くと、



「あー……あの占い師ならどっか行っちまったぜ。何か用事があるとか(のたま)ってよ」

「は……?」

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