第四十六章 第二次クレヴァス防衛強化計画 1.隠蔽と偽装
新章開始です。シャルド調査隊が、クロウが誘導用に設置した金貨を発見した頃の話になります。
『はぐれダンジョンマスターらしき魔族の男がクレヴァスを訪れた。この事態に対して俺たちはどのような対処を取るべきか。今回はこの問題について討議したい』
一応レブからは、現在開発を進めている電撃鞭の完成を待ってから内部の防衛強化に取り組みたいとの回答は得ている。しかし、どのような強化策をとるのかなど、事前に詰めておくべき事は多い。そんなわけで今回の眷属会議の開催となった。
『クレヴァス内部の防衛ですか……やたらと狭くて空隙の多い構造にしましたからねぇ。どちらかというと、罠より待ち伏せ向きの構造ですよ、あれは』
『それはそうだが……できるだけ皆の被害は抑えたいんでな。できるだけ罠優先で考えてもらいたい』
『ご主人様、そもそも人間がクレヴァス内部に入れるものでございますか? また、可能だとしても入ろうと致しますか?』
『確かに、狭いからなぁ……分かれ道も小さいし』
『私の「還らずの迷宮」を上回る狭さですからねぇ……』
『無理に……入ると……途中で……つっかえるんじゃ……ないで……しょうか?』
『……あの、クロウ様……』
『ん? レムスか、どうした?』
『侵入後の撃退よりも、見つからない方策を考えるべきではないでしょうか?』
『見つからない方策か……』
『はい、これはクレヴァスだけでなくクロウ様の洞窟もですが、まずは疑念を持たれないようにする事の方が重要だと思います』
『ふむ。レムス殿は何か腹案をお持ちですかな?』
『いえ、残念ながら。なので、皆さんのお知恵をお借りしたいと』
むう、確かに俺の拠点である洞窟には重厚な迎撃体制を敷いているが、それ以前にダンジョンと疑われないようにする方が優先だな。レムスの言うとおりだ。
『あの魔族はクレヴァスをダンジョンだと見抜いた、あるいは疑ったわけだが、なぜそういう疑いを持ったんだろうな?』
『おそらく、漏れ出る微弱な魔力を感知したのだと思います。ダンジョンマスターにはそういうスキルを持つ者も多いですから』
漏れ出す魔力か……。
『具体的には、どういう場合に魔力が漏れるんだ?』
『魔法を使った場合、全ての魔力が魔法として発現するわけではなく、一部はどうしてもロスが生じます。あとは……獲物を食べる時に漏れ出す場合ですね』
『……ちなみに、クレヴァスの場合最も大きな漏出源は何だ? レブ』
『……大変申し上げにくいのですが……クロウ様が下さる食糧です……』
原因は俺かよ……。
『……漏出源については解った。では、取り得る対策についてだが』
『簡単なのは、隠蔽や偽装などのスキルで覆い隠すことですな』
『ああ、しかし、万一看破された場合は言い逃れができん』
『隠蔽にせよ偽装にせよ、スキルを使う事自体が、微弱とはいえ魔力の残渣を生み出しますしね』
『有効な方法だが、これに頼るのは危険だな。では次に、魔力の漏出を防ぐ方法についてだ』
『単純に、主様が下さるご飯を下の階層に移せばいいんじゃないですか?』
『あとは……第一層ではなるべく魔力を使わないようにするとか?』
『しかし……衰弱した者を救出した場合、すぐに食糧を与える必要があるだろう。その都度下の階層に連れて行くわけにはいかんぞ?』
『非常用の備蓄分だけ残しておけば……』
『わりと……頻繁に……救出して……いるのでは……ないですか?』
『それに、クレヴァス内に陽の光が射し込むのは第一層だけだ。あそこが寛ぎの空間なのは間違いないし、気を遣わねばならん場所にはしたくないな』
『それに……洞窟への……応用を……考えた場合……この方法は……使いづらいのでは……ないですか?』
『あとは……漏出した魔力を消すか、または吸収する方法になるか……』
『あ……』
『うん? どうした? ロムルス』
『今、思い出しました。ウィスプを使ってはいかがでしょうか?』
『ささやき?』
『いえ、クロウ様、ウィスパー――囁き――ではなく、鬼火です。モンスターとゴーストの中間みたいな存在で、空中に漂う微弱な魔力を吸収して生きています』
『そいつらに、漏出した魔力を吸わせようってのか?』
『……そう言えば、ウィスプがいる場所では魔力を辿りにくいと聞いた事があります。兄の提案は一考の価値があるかと』
『ふむ……試してみるか……』
結論を言えばウィスプの起用は大正解で、魔力の漏出を感知できないレベルまで抑える事ができた。早速洞窟にも召喚して配備する事を決めた。
『マスター、このウィスプたちも、マスターの従魔になるんですかぁ?』
……試してみるべきなのか?
もう一話投稿します。




