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第三百章 新任助祭の奮闘~マーカス篇~ 2.霊感師のお告げ(その1)

 レムダック家(きも)()りという「学術調査」に護衛として参加したマクリーヴは、早々にその決断を後悔する……少なくとも不安視に値する状況に陥っていた。



(いや……古代遺跡の探索っていうからには、当ての一つもあるんだと思ってたけど……)



 そんな真っ当なものは無いままに、ノリと勢い、ついでに(メン)()だけで発足(ほっそく)して動き出しているのが、(もっ)()マーカスを席捲(せっけん)している国内探索熱である。

 何しろ〝イラストリアにもマナステラにも、テオドラムにすらある――この部分は誤解らしい――という古代遺跡が、我が国に無いのは国辱ものである〟という、妙な気負いと勢いで始まった遺跡探索なのだ。〝国内にある〟という大前提――仮定ではなく既定――を事実化する事が目的なのだから、証拠だの推論だのという確かなものなど最初からお呼びでない。〝それっぽい〟どころか、〝何かハートにビビッときた〟場所は(あまね)く掘り返すというのが方針となっているのだから、



(……こんなのって、絶対に〝学術調査〟じゃないよなぁ……)



 ――という感興を、マクリーヴが早々に抱いたのも(むべ)なるかなである。


 (もっと)も、さすがに文字どおりの手当たり次第というのでは、興味津々の目を向けている国民たちの受けも(よろ)しくない。それでは支持率にも影響するとあって、各々(おのおの)一応(もっと)もらしい理屈は(ひね)り出しているようだ。

 或るチームは古代の歴史から、或るチームは地形的・地理的な要因から、或るチームは今に残る伝承から、そしてマクリーヴが属するチームは……



(霊感師のお告げに従って――って……それって絶対怪しいやつだろう!?)



 ()(くず)しに競争という(てい)になってしまったため、他のチームと同じ場所には行きづらく、同じ資料や根拠を頼みともしにくい。

 結果、出遅れたチームほど、怪しい根拠に頼らざるを得なくなり、期待薄な場所を目指(めざ)す事を余儀無くされる。今回その貧乏籤(びんぼうくじ)に当たったのが、マクリーヴが所属するチームという事らしかった。


 これでその〝お告げ〟とやらが怪しければ、(くだん)の霊感師も早々にお払い箱となったのであろうが、



(言ってる内容がそれっぽいのがなぁ……)



 (くだん)の霊感師の言うところを要約すれば、概ね以下のようになる。


 ――(かつ)てこの大陸には、マーカスの地を中心として現在のイラストリア・マナステラ・テオドラムの一部にも及ぶ、広大にして有力な帝国があった。

 しかし、長き戦乱によって国土は荒れ、豊かな財宝も優れた知識も技術も民と共に散り散りとなり、在りし日の栄光は全て失われてしまった。

 一部の民は戦火を逃れて山野に潜んだが、優れた知識や技術の多くは絶えてしまった。彼らが持ち出した財宝の、更にその僅かな一部のみが細々と今に伝わっており、それが即ちイラストリアやマナステラで発見されたという財宝である……


 ――成る程。これはマーカスの貴族が喜びそうな内容だ。

 それはつまり……



(こんな話を持ち出されたら、どうしたって信じたくなるのが人情だよなぁ……)



 そこはマクリーヴも宗教組織の一員であるから、人心(じんしん)(しゅう)(らん)()(くだ)については知り尽くしている。自尊心や虚栄心を(くすぐ)ってやるのはその基本である。

 イラストリアにおけるシャルドの封印遺跡・古代遺跡に続いて、マナステラでも未詳の石窟遺跡が発見されたという。隣国が着々と成果を上げているのに比して、母国の為体(ていたらく)如何(いかが)なものか。

 不甲斐無(ふがいな)さと屈辱感に内心で(せっ)()扼腕(やくわん)していたところ、その目の前にぶら下げられたのが、〝古代マーカス帝国(仮)の遺産〟とくれば、飛び付きたくなるのも鵜呑みにしたくなるのも(むべ)なるかな。


 (もっと)も、レムダック卿とてそれなりに(したた)かな貴族であるから、単なる甘言と美辞麗句だけでは、食指の一本も動かさなかっただろう。()()(じん)がこの話に飛び付いたのには、一応はそれ相応の理由があった。

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