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第二百九十九章 コン・ゲーム~始動~ 11.当事国の悩み~テオドラムとアムルファン~

「この()に及んで贋金貨が出て来るとは……」

「一体どういう事なんだ……」



 アムルファン商業ギルドから寄せられた情報をマンディーク商務卿の口から聞かされて、居並ぶ国務卿一同は(えん)()の声を上げた。



「念のために訊ねるが……新金貨は全て品位を確認してあるのだな?」

「無論だ。財務方の総力を挙げて、全数検査を行なった。その結果発見された贋金貨については、厳重に保管されてある。更に、隔離された贋金貨については適宜検査を行なって、すり替えなどが為されていない事を確認している」



 苦り切った表情と憤然たる声色(こわいろ)で、ファビク財務卿が答を返した。



「と、いう事は……」

「今回発見された贋金貨の()(どころ)は、我が国ではないという事だ」

「と、すると……」

「残る候補は二つしかあるまい。贋金造りの犯人と……」

「アムルファンの商業ギルドだろうな」



 断定的な口調で言い切ったメルカ内務卿に、居並ぶ一同の視線が集まる。



「贋造犯なら贋金貨を持っているのは当然だが、それを紛れ込ませる機会があるまい。それに、たった一枚だけをすり替えて、犯人に何の利益がある?」

「しかし商業ギルドなら……」

「前回の騒動時に贋金貨をすり替える機会も、今回それを紛れ込ませる機会もあった訳だ」

「ついでに言うと、我が国に責任を押し被せる機会もな。幾ら我々が全数検査を行なったと言っても、この状況でそれを信じてもらえるかどうか」

「うむ……」

「抜き取り検査の精度が甘かった――と受け取られる訳か」



 ――成る程。確かにアムルファンの容疑は濃厚のようだが、しかし動機は何なのか。態々(わざわざ)こんな茶番を演じてまで、一体何をしたかったのか?



「ひょっとして……今後我が国とは手切れとする、その口実を得るためか?」



 北街道の利益に目の(くら)んだアムルファンが、自分たちとの関係改善を視野に入れて動いている……などとは夢にも思わないテオドラム側は、そんな事を考えていたのである。



・・・・・・・・



 同じ頃、アムルファンの商都ソマリクでは、商業ギルドのメンバーたちが今後の方針について頭を悩ませていた。



「今回の贋金出現は事故だろうが……」

「その〝事故〟の当事者がテオドラムかアムルファン(う ち)かで、水掛け論になる(おそれ)があるな」

「あぁ。こうなるとセルキアが贋金貨を一枚くすねた一件、あれが弱みになりそうだ」

「あの時は巧くしてやったものだと思ったんだがな……」



 混入の機会はテオドラムとアムルファンの双方にある。どちらも自分の潔白を主張し、しかもそれを証拠立てる方法が無い以上、不毛な水掛け論にしかなり得ない。

 ただ……



「悪い事に動機という点では、こっちに隙があると言えなくもない」

「テオドラムとマーカスの避戦運動か……」



 結果だけを見るなら、今回の贋金騒ぎでテオドラムの新金貨に対する信用は二番底まで落ちた。今後も決済に使用する事はできないだろう。

 そしてその故に――テオドラムが行なっている北街道の整備、あれが遅れる可能性が出て来た。



「北街道の整備が、マーカスとの開戦の前提条件である以上……」

「開戦を遅らせるために、贋金貨の小細工を仕掛けた――と、(かん)()られる虞がある訳か……」

「我々が避戦のために運動していた事は、広く知られているからな……」



 とんだところでとんだ(とばっち)りを(こうむ)ったものだが、それについてはもう諦めるしか無い。だが、問題となるのはそれだけではない。



「こうなると北街道の整備に我々が手を貸す事は、これまで以上に難しくなった」

「あぁ。避戦が成ろうと成るまいと――な」



 テオドラムとマーカスの開戦こそ願い下げだが、北街道の整備それ自体は、アムルファン商業ギルドとしても望ましいものである。叶う事なら一枚噛んででも、その事業を推し進めたいところであるが、



「今となっては、それは難しいだろう」

「一度はテオドラムとの関係改善も視野に入れていたというのに……」

「中々上手くいかんものだな」


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