第二百九十九章 コン・ゲーム~始動~ 10.再びモルファン情報部(その2)
ただ一枚の贋金貨なら、意図的に紛れ込ませる事も不可能ではなさそうだ。
その場合に容疑が濃厚なのは、贋金貨をちょろまかす機会を持つアムルファンの商人という事になる。
ちなみに、混ぜ込む機会だけなら異国の商人にもあるが、肝心の贋金貨を入手する伝手が無い筈だし、どう考えても容疑者たり得ないだろう。
「しかし、動機が不明です」
「確かにな……」
市井の破落戸が、やれ料理に虫が混入していただの商品が傷物だっただのとイチャモンを付けて、小金を強請り取る事があるという。確かに状況には一脈通じるものがあるが、苟も「アムルファンの商業ギルド」が、「テオドラム王国」を相手にそんな真似をやらかすか? また、苟も「テオドラム王国」が、そんな強請に屈するか?
「無いでしょうね」
「無いよなぁ」
とすると、意図的な混入の線は消え、本筋は手違いによる混入という事になる。しかしこれに関しては、テオドラムの検査体制が判らないと、推測の立てようが無い。
「という訳で次だ。異国の商人という男は、代金の一部を商業ギルドに預託したと言うのか?」
何のためにそんな事をする?
土地の一画への居住権を申請した事といい、孰れ戻って来る気があるというのか?
「解りませんが……商業ギルドに係累の捜索を依頼したそうです」
「係累の捜索を?」
それは順番が逆ではないのか? 係累の捜索を済ませた後で、証文の売買に取りかかるのが筋だろう。海の向こうでは違うのだろうか?
だがまぁ、それはそれとして、
「係累の捜索を依頼したという事は……正当な所有者の血筋が現れたら、代金の譲渡も考えているという事か?」
「連絡先も残していったようですから、あり得ない話でもないかと」
「……何故そんな真似をする?」
「商人として脛に傷が付く事を警戒しているのでは?」
「うむ……」
どうもこの件については解らない事が多い。だが――
「アムルファンの商業ギルドが係累の捜索を行なうようなら、その成果に目を配っておいてくれ」
「……はい?」
当惑の色を浮かべた部下の顔を見て、チーフの男は腹黒そうな笑いを浮かべる。
「問題の土地というのは、テオドラムの重要街道を監視できる位置にある。そうだな?」
「はぁ、それはそうですが……」
「あの国は色々と火種を抱え込んでいそうだし、我が国としてもその動きに無関心ではいられない。解るな?」
「はぁ……」
「そんな国の商流を監視できる位置に、絶好の拠点があるというのだ。これを見過ごす手は無いだろう」
「……つまり……」
「証文の偽造に較べれば、係累を〝見つけ出す〟のはそれより簡単だろう?」




